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失語症のリハビリ普及を オンラインで人材育成 音楽要素のMIT

2021.7.27 0:00

 「話す」「聞く」「読む」などの言語機能がうまく働かなくなる「失語症」。脳卒中や事故などで言語に関する脳の領域が損傷して起きる。症状はさまざまだが、あるタイプの失語症に効果が期待されるのが音楽的要素を取り入れた「メロディックイントネーションセラピー(MIT)」と呼ばれるリハビリ手法だ。米国で提唱されたプログラムを日本人向けに改良した「MIT日本語版」の普及を図るため、言語聴覚士や一般の人に手順を習得してもらうオンライン講習の試みが動きだした。

失語症の「メロディックイントネーションセラピー(MIT)」の実演例。患者役(右)の手に言語聴覚士が刺激を与えている(Reジョブ大阪提供)
失語症の「メロディックイントネーションセラピー(MIT)」の実演例。患者役(右)の手に言語聴覚士が刺激を与えている(Reジョブ大阪提供)

 ▽長期の改善
 失語症患者は国内に50万人いるともいわれる。話しぶりは流ちょうだが言葉の意味や情報に乏しく、話を聞いて理解することが難しい「ウェルニッケ失語」や、話を聞いて理解することができても、思っていることをうまく言葉にして話せない「ブローカ失語」が代表的。適切な言葉を見つけるのに苦労する「健忘失語」というタイプもある。
 いずれも認知機能には問題なく、人と意思疎通できずに失望やいらだちを感じる人もいる。言語によるコミュニケーションに大きく依存する日常生活に支障が出る。
 「脳卒中などからの回復時にある程度症状が改善する人は多いが、次第にペースが緩やかになって元通りになることは少ない」と言語聴覚士で三鷹高次脳機能障害研究所の関啓子所長。「それでも半年を超えて根気強くリハビリを続けることで長期的な改善が期待できる」と強調する。
 ▽歌と言葉
 MITは1970年代に米国の研究者が提唱した。聞くことができてもうまく話せないブローカ失語の患者に有効とされる。2011年に頭部を銃撃されて重体となったが劇的に回復した元米下院議員のガブリエル・ギフォーズさんも、重度の失語症をMITでリハビリしたことが知られている。
 ユニークなのが言語と音楽をつなぐ発想だ。失語症には言葉をうまく話せないが歌うことができる人がいる。一般に脳の言語領域は左側に、音楽の領域は右側に分かれており、片方が無事なのが理由らしい。
 MITでは言語聴覚士が患者と向き合って座り、抑揚とリズムを付けながら単語や文章を歌うように復唱する。それに合わせて左手に軽く触れたり振ったりして損傷のない脳の右側に刺激を与え、言語機能への「手助け」を促す。

三鷹高次脳機能障害研究所長で言語聴覚士の関啓子さん
三鷹高次脳機能障害研究所長で言語聴覚士の関啓子さん

 

 関さんは英語と日本語では抑揚やリズムが異なるのに着目。4拍子のリズムに乗せて歌う日本語版のプログラムを開発し、実施例を重ねてきた。
 実は関さんは神戸大教授だった09年に脳卒中に倒れ、自らが失語症患者となる経験をした。リハビリを重ねて言語機能は大きく回復したが、MITの普及や研究は足踏みを余儀なくされた。
 ▽動画で学習
 東京都立産業技術大学院大の佐藤正之特任教授は今年、関さんと共に普及団体の「日本メロディックイントネーションセラピー協会(日本MIT協会)」を設立した。佐藤さんらは脳梗塞から1年以上たった患者が10日間のリハビリで言語機能が改善した例などを複数報告している。
 今後の課題となるのが経験を積んだセラピストの育成。MITは患者の理解度を正しく評価しながら適切なステップを経る必要がある。音楽的な要素が多いため、動画を使って手順やこつを学習してもらうのが有効だ。
 関さんは失語症患者を支援するNPO法人「Reジョブ大阪」や民間企業と一緒に講座の教材を作成中。「今年秋には言語聴覚士や一般の人向けのオンライン講習を始めたい」と意気込む。(共同=吉村敬介)

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