メニュー 閉じる メニュー

社会参加促進へ支援者養成 失語症、国が制度化 取り組みに地域差

2019.5.4 0:00

 脳卒中の後遺症などで失語症になった人は国内に約50万人いると推定される。その意思疎通を助け、社会参加を促す支援者の養成・派遣を厚生労働省が制度化し、2018年度から養成が始まった。遅れていた支援制度の始動を関係者は歓迎しているが、取り組みに地域差が目立つなど課題もある。制度の定着には時間がかかりそうだ。

 
 

  ▽訴えられず

 失語症は、大脳の言語中枢が損傷を受けることにより、言葉の力全般が低下する障害。話すだけでなく、人の話を聞いて理解したり、文字を読んで意味を把握したりすることが困難になり、書くのも難しい。一方で記憶力や判断力は保たれており、他人とコミュニケーションが取れない本人の苦痛は大きい。

 

 最近の調査によれば、発症後は外出や他者と交流する機会が減り、孤独感が増したという当事者が多い。

 「聴覚障害には手話通訳、視覚障害には代読といった行政の支援サービスがあるのに、失語症は長く対象外でした」

 こう話すのは、失語症の当事者と家族らでつくる日本失語症協議会の園田尚美副理事長だ。

 なぜだろうか。厚労省の事業で調査会社が、全国の市区町村に聴覚・視覚障害以外の支援事業がない理由を尋ねたところ「ニーズがあまりない」との答えが69%に上った。

 「実際は、障害のため自分たちのニーズを訴えられなかっただけ。支援の必要性がようやく認められた」と園田さん。

 
 

  ▽銀行だけでなく

 新制度で養成される「失語症者向け意思疎通支援者」は、国が定めたカリキュラムに沿って40時間以上の講習を受ける必要がある。要請を受けて派遣され、失語症の人と他者とのコミュニケーションを助ける。買い物や病院、役所、銀行などへの同行も想定されている。

 制度ができる前から、民間団体や一部の自治体は支援者として「失語症会話パートナー」の養成に取り組んでいた。東京のNPO法人「和音(わおん)」(宇野園子代表理事)は2000年から養成を始めた、その先駆けだ。

 和音の創設メンバーは、言葉のリハビリを担当する専門職である言語聴覚士ら。病院を退院後、自宅に引きこもりがちになる失語症の人が多いのを見て「社会との橋渡しをする人材が必要だと思った」と初代代表の田村洋子さんは話す。

和音で定期的に開かれている「失語症会話サロン」(人名部分に画像加工あり)
    和音で定期的に開かれている「失語症会話サロン」

 和音では定期的に「失語症会話サロン」を開いている。会話パートナーは話の要点を白板に手早くまとめたり、分かりやすく言い換えたりして、失語症の人同士の会話がうまく進むよう気を配る。安心して話を楽しめる環境の中で、長く無言だった人も会話に加わるなどの例があるという。

 代表の宇野さんは「銀行手続きの支援などは重要だが、自分の言葉を聞いてもらい、会話を通じて人と関わりが持てる場も大切。意思疎通支援者は、そうした機会でも活躍してほしい」と話す。

  ▽11都府県のみ

 厚労省は、意思疎通支援者の養成は都道府県、派遣は原則として市区町村とする役割分担を示し、17年度から支援者の「先生」に当たる指導者を養成したが、その先の進み具合には地域差がある。

 18年度に意思疎通支援者の養成を実施したのは東京など11都府県にとどまる。支援者の派遣は19年度からの開始が期待されたが、準備できていない市区町村がほとんどだという。

 失語症協議会の園田さんは「当事者、家族としては、新制度を積極的に活用していきたい。派遣はぜひ早く始めてほしい」と話している。

(共同通信 吉本明美)

最新記事