診断つかず発作繰り返す 難病の遺伝性血管性浮腫 激しい腹痛や呼吸困難も

2022年08月23日
共同通信共同通信
 皮膚や粘膜が急激にむくみ、顔が腫れたり、激しい腹痛を起こしたりする。遺伝性血管性浮腫(HAE)はそんな症状を起こす厚生労働省の指定難病だ。喉が腫れれば呼吸困難から命にも関わる。治療の進歩で発症を抑えられるようになった一方、病気への理解が不十分なため、多くの患者が診断されないままだ。関係者は病気への理解を訴えている。
遺伝性血管性浮腫の治療の進歩について語る、広島市立広島市民病院の秀道広病院長
遺伝性血管性浮腫の治療の進歩について語る、広島市立広島市民病院の秀道広病院長

 

 ▽特徴的な症状
 広島市立広島市民病院の秀道広病院長(皮膚科学)によると、この病気は主に、生まれつき「C1インヒビター」という因子の働きが弱いことによって起きる。海外の研究では患者は人口5万人に1人程度。人種差はないとされ、日本にも2千~3千人いるはずだ。ただ、治療を受けている患者はずっと少ない。
 秀さんによると、病気の仕組みは複雑だが、診断は臨床症状と血液検査で十分に可能だという。
 「顔や唇の腫れ、腹痛、喉の腫れによる呼吸困難などが急激に起こり、数日続く。これを繰り返すのが特徴だ。疑わしい場合は、血液検査でC1インヒビターの働きや関連物質の濃度を調べて診断を確定します」
 ▽原因不明のまま
 治療薬は近年、急速に進歩した。不足するC1インヒビターを補充する薬や、浮腫を起こす物質を阻害する薬が実用化し、発作の際に速やかに改善できるだけでなく、発作が現れるのを長期に予防することも可能になった。その結果、患者の生活の質は劇的に向上。「指定難病の中でもコントロールしやすい病気になった」(秀さん)という。
 一方で、診断にたどり着かない患者はつらい。大阪大の大学院生、磯野萌子さん(医学研究倫理)は、発症から診断まで5年以上かかった患者9人にその経験をインタビューし、論文発表した。
 発症から診断まで9人の平均は約23年。発作があって診察を受けても「様子をみましょう」と言われる。精神的な要因だと言われた人も。そうした発作を繰り返すうちに「病院に行っても無駄だ」と自宅で発作を我慢し、最後は痛みに耐えかねて救急搬送される患者もいた。
 
 

 

 自己管理不足だと自分を責めたり、受診を諦めたり、疲弊するばかりの患者像に、磯野さんは「難病の可能性に気づきやすくする対策がぜひとも必要だ」と話した。
 ▽40年後の診断
 「遺伝性血管性浮腫患者会HAEJ」の理事長、山本ベバリーアン大阪大教授(62)もそうした患者の一人だった。
 生まれ育った英国で、10代で発症した。歯科治療後に顔が腫れた。その後、激しい腹痛を起こして受診した病院では盲腸を疑われて手術し、退院前にも腹痛が再発した。
 それ以来続いた、激しいおなかの痛みと嘔吐(おうと)。発作中は眠ることもできない。受診のたびにアレルギーや食中毒、子宮内膜症などと診断されたが、どの薬も効かなかった。腹水がたまった際は、がんの疑いで検査が1年続いた。体質なのだと諦め、発作が起きても受診しないこともあった。
 40代以降は年に何度も救急車で運ばれた。ようやく診断がついたのは、発症から40年後の52歳。救急搬送先の病院の医師が気付いてくれた。驚いたことに、薬を投与して小一時間で痛みが引いた。
 今では薬によって発作は起きていない。国際患者会「HAEインターナショナル」を知って、日本にも患者会が必要だと考えてHAEJを設立。喉の腫れで亡くなった患者の遺族にも出会った。「治療法はほぼ確立しており、後に続く人たちにこんな思いを二度とさせたくない」と、未診断患者を減らすための啓発活動に力を入れている。(共同=由藤庸二郎)