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大きな影響力、慎重報道を 岐阜県の強盗殺人事件で妹を亡くした松井克幸さん 【実名報道 遺族は思う】(4)

2020.3.19 7:30 共同通信

 36人が亡くなった京都アニメーション放火殺人事件では、多くの遺族が実名を公表しないよう求め、被害者の氏名を報じる必要性やマスコミの取材の在り方が問われた。同じように事件や事故で突然家族を失った人たちは、どのように考えるのか。それぞれの体験を踏まえ報道への思いを聞いた。(第4回聞き手、共同通信=中山拓郎)

インタビューに答える松井克幸さん
インタビューに答える松井克幸さん

 

 2012年5月、妹洋子=当時(40)=の行方が分からなくなりました。岐阜県瑞浪市内で見つかった洋子の車から血痕が確認されたため、警察は事件性が高いと判断し、事案の概要や妹の氏名、住所を公表しました。

 妹が両親らと暮らしていた瑞浪市内の自宅にマスコミが大挙して押し寄せました。両親も私も「気持ちの整理がつかない」と取材を断ったにもかかわらず、何度もインターホンを鳴らされました。各新聞社、テレビ局に抗議の電話を入れましたが、取り合ってもらえませんでした。

 行方不明の段階で「亡くなった感想」を聞かれたり、「取材拒否ということですね」と捨てぜりふを吐かれたり…。記者の皆さんの心ない言葉にも傷つきました。

 数日後、瑞浪市内の山中で妹の遺体が見つかり、6月には知人とされる男が逮捕されました。この間も事件に関する報道はやまず、凶器の刃物が妹のものであるとする臆測記事や、男が「刃物は自分で用意していない」と供述したとの報道など、結果的に裁判員裁判の判決内容とは正反対の誤報が多く出ました。

 判決は男の殺意も計画性も認めましたが、こうした報道のせいで「知人同士がトラブルになって、被害者が持参した刃物を使って加害者がたまたま事件を起こした」という誤ったストーリーが一人歩きしてしまいます。

 被害者側にも責任があると言われているようで、「トラブル」という表現にも抵抗感がありました。妹と犯人の顔写真を並べたワイドショーもありました。そうした報道がどんな影響を及ぼすか、もっと想像力を働かせるべきだと思います。

 こういう事件があった、こういう人間が生きていたと記録することは重要です。実名報道を否定するつもりはありませんが、警察は遺族に氏名を公表していいか確認するべきだし、マスコミにはより慎重な報道を求めたいと思います。

 その後の裁判はわずか3日で結審しました。裁判員への配慮から最低限の証拠しか採用されず、重要な証拠のはずの遺体の写真も、イラストになって裁判員に示されました。事件報道も大事ですが、マスコミにはこうした既存の制度の課題もしっかり検証してほしいと思います。
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 まつい・かつゆき 1964年生まれ。ぎふ犯罪被害者支援センター理事。各地の警察や弁護士会で講演を続けている。

 岐阜・瑞浪の幼稚園教諭強盗殺人事件 2012年5月、岐阜県瑞浪市の幼稚園教諭松井洋子さん=当時(40)=の遺体が市内の山中で発見され、県警は同年6月、松井さんを殺害してキャッシュカードを奪ったとする強盗殺人容疑で知人の男を逮捕した。男は岐阜地裁の公判で殺意を否認したが、求刑通り無期懲役が言い渡された。検察、弁護側のいずれも控訴せず、刑が確定した。

 

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