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人生を「無」にさせない アルジェリア人質事件で長男が死亡した内藤さよ子さん 【実名報道 遺族は思う】(3)

2020.3.18 7:30 共同通信

 36人が亡くなった京都アニメーション放火殺人事件では、多くの遺族が実名を公表しないよう求め、被害者の氏名を報じる必要性やマスコミの取材の在り方が問われた。同じように事件や事故で突然家族を失った人たちは、どのように考えるのか。それぞれの体験を踏まえ報道への思いを聞いた。(第3回聞き手、共同通信=中山拓郎)

インタビューに答える内藤さよ子さん
インタビューに答える内藤さよ子さん

 

 長男文司郎=当時(44)=は2013年にアルジェリアで起きた人質事件に巻き込まれ、命を落としました。当初、派遣元の日揮から伝えられる情報はころころと変わりました。「文司郎さんは無事」「誰が人質か分からない」「厳しい状況になった」というように。日揮の苦労も分かりますが、翻弄されました。

 そんな中、ある記者の訪問を受けました。「愛知県豊橋市のナイトウさんが被害に遭った」との情報をつかみ、訪ねてきたとのこと。情報に飢えていた私は思わず「何でもいいから知っていることを全て教えて」と懇願しました。

 この直後、文司郎の死亡が確認されました。日揮からは「お名前は公表しません。安心してください」と連絡を受けました。違和感を覚えました。「息子の何を隠し立てしようとしているの?」。こんなふうに言い返してしまいました。

 政府も当初、犠牲者の氏名を伏せていたにもかかわらず、自宅の前には大勢の記者が集まるようになりました。心配で駆け付けてくれた友人には理解されませんでしたが、何度か取材に応じました。

 息子は「内藤文司郎」として44年間、一生懸命生きました。「Aさん」や「豊橋市の40代男性」と報道されることには抵抗感がありました。記者の前で話すのは大きな負担でしたが、「私が話さなかったら文司郎の人生が覆い隠されて『無』になってしまう」という気持ちが勝りました。

 その一方で、地元で商売をやっている次男は取材対応に後ろ向きでした。記事になって取引先に説明するのが嫌だったのだと思います。

 次男や友人には「マスコミは無責任だ」という固定観念があります。突然遺族の元に押しかけ、好き放題に書き散らかす。間違っていても責任を取らない―。そんなイメージです。こうした考え方が、世の中では一般的なのかもしれません。

 京都アニメーションの放火殺人事件では、アニメーターの男性のお父さまが記者会見し「息子を忘れないで」と訴えました。気持ちは痛いほどよく分かります。しかし、子どもの死とどう向き合うかは人によって違います。「そっとしておいてほしい」という遺族の気持ちを否定することはできません。
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 ないとう・さよこ 1943年、愛知県豊橋市生まれ。今年1月に「突然の親子の別れ」(文芸社)を出版した。

 アルジェリア人質事件 北アフリカのアルジェリアで2013年1月、プラント建設大手日揮の駐在員ら多数の外国人がイスラム武装勢力に拘束された。アルジェリア軍が軍事作戦を展開し、人質の日本人17人中10人を含む40人が死亡。日揮は遺族の負担を考慮し、犠牲者の氏名を明らかにしなかった。政府も同様の対応だったが、遺体の帰国後、公表に転じた。

 

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