高齢者カロリー不足の恐れ 厳密測定の研究で判明 体重量り食事見直しを
▽二重標識水法
市販の食材や調理品のエネルギーはカロリーで細かく表示されており、食べた分の計算はすぐできるようにも思える。
しかし「それは違う」と佐々木敏 東京大教授(社会予防疫学)は言う。「実際に取り入れたカロリーを厳密に調べるのはとても難しい。同じ食材でも品質に差があるし、献立ごとの推定も、調理法や盛り付けで大きく誤差が出る」というのだ。
消費エネルギーも同様で、本当に厳密に調べるには本来、排せつ物の成分や熱量まで調べる必要がある。実際に調べるのは容易ではない。
消費エネルギーの厳密な把握がようやくできるようになったのは、今は世界的に用いられている「二重標識水法」が開発されてからだ。
酸素と水素それぞれに“標識”を付けた水を飲んでもらい、2週間にわたって採血。活動が大きいほど水素より酸素が早く消費される性質を利用して、使われた水素と酸素の比率から消費エネルギーを正確に割り出す。

▽食べても痩せる?
慶応大と国立健康・栄養研究所、東京大などは2016~17年、東京都内の高齢者施設に入所する71~99歳の28人について二重標識水法で総エネルギー消費量を測定。同じ時期の食事の献立と残食から推定した摂取量と比較した。エネルギーの出入りを比べる研究だ。その結果は、一見分かりにくいものだった。1日当たりの消費量の平均値1132キロカロリーに対し、同じ期間の推定摂取量は1日1479キロカロリーと大差があったのだ。
数字だけ見れば、対象者は1日平均300キロカロリー以上食べ過ぎている。ところが、対象者の28人中7人は調査期間中、摂取量の方が多かったのにもかかわらず体重が減った。食べ過ぎならむしろ太るはずではないのか。
▽おにぎり1個分
研究をまとめた慶応大スポーツ医学研究センターの西田優紀研究員によると、今回調査によって、施設にいる高齢者が実際に摂取しているカロリーは、見かけ上のカロリーよりも1日当たりおにぎり1個分に相当する200キロカロリー余り少ない可能性が示された。
西田さんによると、原因は明らかではないが「過去の研究から、高齢者では消化吸収が衰える可能性があるのに、現状のエネルギー必要量の計算に消化吸収率の低下が考慮されていない」という。
そうした体重減少を防ぐには、食事のカロリー計算をもっと細かく、正確にするべきなのか。

同じ研究グループで糖尿病患者のエネルギー消費を分析した滋賀医科大の森野勝太郎IR室准教授(糖尿病内分泌内科)は、それよりも、日々の体重変動自体に注意を払うようアドバイスする。
「こまめに量り、痩せていくときは要注意。医学的な判断によって減量の努力が必要な人はいるが、急な体重減少は筋力低下から虚弱につながる」と注意を促す。
森野さんらの二重標識水法での研究では、糖尿病患者でも従来考えられていたより摂取必要量が多い可能性が示された。
森野さんは「体調が良かったとき、若いときの体重を知り、変化に気を付けるといい。筋肉維持にはタンパク質もしっかり取るべきだ。ただ、食事とは本来楽しいもの。3食きちんと、楽しく食べて体力を保つことが何より大切だ」と話した。(共同=由藤庸二郎)