メニュー 閉じる メニュー

ときに「望まぬ結果」も 広がる新出生前診断 背景に検査ビジネス

2021.1.29 0:00
 何のために検査を受けるのだろうか。早い段階で病気を見つけて治療したい。健康なのを確かめて安心したいなど動機はさまざま。ただ治療できない病気が思いがけず見つかった場合の対処は難しい。
 母親のおなかの中の赤ちゃんに染色体異常がないかどうかを調べる「新出生前診断」はそうした課題を突き付ける。高齢出産への不安をあおる形で無認定の検査ビジネスが国内で拡大している状況。宮城県立こども病院の室月淳産科部長は「望まない結果が出たときにどう対処するか、検査を受ける前にパートナーと一緒に十分に考えておく必要がある」と訴える。
新出生前診断の課題について説明する宮城県立こども病院の室月淳産科部長
新出生前診断の課題について説明する宮城県立こども病院の室月淳産科部長

 ▽偽陽性も

 新出生前診断は妊婦の血液にわずかに含まれる胎児のDNA断片を高精度で調べる検査。国内では2013年に日本産科婦人科学会の臨床研究として始まった。全国100以上の認定施設が参加する「NIPTコンソーシアム」が実施し、室月さんの病院もその一つ。認定施設で年間1万4千件以上を実施している。
 対象となるのは染色体異常の子を持つリスクが高まる35歳以上の妊婦。専門家による入念なカウンセリングを実施して心構えをしてもらう。ダウン症など3種類の染色体異常の有無を調べるが、実際には赤ちゃんが正常な「偽陽性」のケースも少数だがありうる。このため陽性の場合は妊婦のおなかに針を刺して羊水を採取し、胎児の細胞を調べる確定検査が必要になる。
 ▽不安産業
 一方で未認定のクリニックによる実施例も増えている。妊婦向けの情報発信アプリを使った学会のアンケートで、妊婦の半数以上が認定施設以外で新出生前診断を受けたことが判明。リスクが低い若い妊婦が多く受けていることも分かった。
 室月さんは「ベンチャー企業が手掛ける検査ビジネスの拡大が背景にある」とみる。こうした企業は雑誌やネット広告で希望者を集め、街中の医院やクリニックに採血を委託。検体を集めて海外の検査会社に送り、結果が出たら利用者にメールや郵便で知らせることが多い。
 手軽さと安価さが売りで、十分なカウンセリングを行っている施設は少ない。「赤ちゃんに病気が見つかった場合にどうするかといった心構えがないまま、陽性の結果を知らされてショックを受ける人がいそうだ」と室月さん。健康への不安をあおって市場ニーズを生み出す医療周辺産業の在り方に疑問を抱く。
 
 

 ▽中絶の苦悩

 懸念されるのが陽性の結果だけで確定検査せずに中絶に進むケースだ。実際には赤ちゃんが健康な可能性がある。妊娠中期の中絶は母体への負担が大きく、深刻な心の傷も残す。
 室月さんは確定検査後に中絶を選んだカップルを何組も見てきた。待ち望んだ子どもを持てなかった苦悩から泣き崩れる人もいる。「新出生前診断を受けるということは、こうした問題に直面する可能性があるということ。検査ビジネスの多くではこの点が十分に考慮されていない」と話す。
 室月さんが目指すのは赤ちゃんの病気を生まれる前に特定し、可能ならできるだけ早い段階で治療することだ。現在は染色体異常を根治するのは難しいが、新出生前診断の遺伝子検査技術が将来の治療に役立つ可能性もあるとみている。
 偽陽性が出ることがある新型コロナウイルスのPCR検査など、使い方に注意すべき医療技術は他にもある。「不安に追い立てられないためにも技術の限界や使い方への十分な理解が必要だ」と室月さんは語る。
 認定施設はNIPTコンソーシアムのホームページに掲載されている。(共同=吉村敬介)

最新記事