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がん患者の選択を後押し 治療前に生殖医療外来 心理面のケアを重視

2020.5.13 17:32
 若い世代のがん患者が手術や抗がん剤、放射線治療を受けると、子どもを授かる機能が弱くなったり、失われたりすることが珍しくない。子どもを持つ可能性を保つには卵子や精子の凍結保存などの方法がある。そうした選択肢をがん治療前の早い段階で示し、患者自身の判断を後押しする先進的な医療の取り組みを取材した。
 ▽最優先は治療
 岐阜市の岐阜大病院は2013年「がん・生殖医療外来」を開設し、連携するがん治療病院や産婦人科クリニックから患者を受け入れている。
 古井辰郎臨床教授(産婦人科)は「患者が子どもを持ちたいと思ったときに初めて生殖機能が失われていたことを知る事態は避けたい」と話す。
 外来は古井さんら産婦人科医のほか、それぞれ生殖医療に関する専門資格を持つ看護師と臨床心理士が担当する。
 最初の外来で必ず告げるのは「がんの治療を最優先する」こと。多くの患者はがん治療に時間の余裕がない上、患者が卵子や精子の保存を望んだとしても、がんの状態や元々の生殖機能によっては、かなわないこともあるからだ。
 2回目は医師は同席せず、看護師や臨床心理士が、本人が子どもを持つことや将来をどのように考えているのか、価値観や人生観を聞き取る。
打ち合わせをする古井辰郎さん(左から2人目)、臨床心理士の伊藤由夏さん(同3人目)らがん・生殖医療外来スタッフ=岐阜市の岐阜大病院
打ち合わせをする古井辰郎さん(左から2人目)、臨床心理士の伊藤由夏さん(同3人目)らがん・生殖医療外来スタッフ=岐阜市の岐阜大病院

 

 ▽「確信」が大切
 がん患者は、気持ちが落ち込むこともある。臨床心理士の伊藤由夏さんによると、保存を希望してもしなくても、自分の判断が最善なのかどうか、自信を持てない人がいる。不安や混乱を抱えたままにしないことが肝心だ。この医療チームで患者の理解の程度や精神状態を見極め、自分で意思を決められるよう促す。
 パートナーや家族と個別に面談するケースもある。子どもを持つことについて意見が食い違うこともあるからだ。最終的に本人が自分の意思で決められるよう面談で話し合う。「正解がないからこそ『自分で決めた』という確信が大切だ」と伊藤さんは話す。
 凍結保存には、保存の意思を定期的に再確認する手続きが必要となるため、本人が亡くなった場合の精子や卵子は保存できなくなる。また、保存や妊娠がうまくいかず子どもができないこと、がんが再発し妊娠を諦めざるを得ないこともある。伊藤さんは「そういうときも生殖医療外来に話をしに来てほしい」と伝えている。
 
 

 


 ▽費用負担に課題
 岐阜大病院の二村学臨床教授(乳腺外科)が17年、院内で40歳以下の乳がん患者にアンケートをしたところ、生殖医療外来や主治医などから説明を受けた人の多くは「情報提供を受けてよかった」と回答した。
 「自分の望んだ結論ではないかもしれないが、治療を前向きに続けるためにも現実を受け入れることは重要だ」
 より若い、思春期前の子どもへの説明はさらに難しい。岐阜市民病院の篠田邦大小児科部長は「子どもは自分の性や生殖について十分な理解が難しい」と話す。
 子ども時代にがんを経験して成長した人が、結婚や妊娠の相談に来たときは積極的に岐阜大病院の生殖医療外来を紹介している。「今の状況を知ることは、その後の人生をどう生きるかの指標にもなるから」と話す。 
 がん患者の生殖医療は費用面が大きな課題だ。岐阜大病院の生殖医療外来は医療保険が利かず、30分まで1万円、その後30分ごとに5千円かかる。
 卵子や精子の保存、妊娠に向けた体外受精なども高額だ。一部を助成する自治体もあるが、最低数十万円の費用を出せず諦める人も。患者団体からは公的支援の充実を求める声が高まっている。(共同=山岡文子)

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