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「病、それから」稲葉賀恵さん(ファッションデザイナー) 年重ねる美しさ伝えたい

2018.12.25 0:00

 日本を代表するファッションデザイナー稲葉賀恵さん(79)の作る服は、着る人を洗練された大人の女性に見せてくれる。その大きな理由の一つが色使い。服の魅力を高める色の選び方と配分が絶妙なのだ。「年を重ねた美しさを引き出す服を作りたい」と願う稲葉さんには、白内障で「色が見分けられない」と苦しんだ時期があった。

稲葉賀恵さん
      稲葉賀恵さん

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 私は「デザイナー」ではなくて「洋服屋」だと思っています。モード(流行)は意識しますが、アブストラクト(抽象的)な服は作らない。あくまでも着てくれる人を、美しく心地よくしたいだけ。だから「目を刺さない、悪目立ちしない」ことを大切に、シックで落ち着いた色合いになることが多いですね。

 ▽微妙な「色」

 色は本当に微妙なもの。海外で買った衣類を日本に持ち帰ると「こんな色だった?」ということはありませんか? 欧州では淡くて上品な色に見えたシルバーグレーのセーターが、日本では地味な灰色だった…という経験が、私は何度もあります。空気中の湿度が違うだけで、色は全く違って見えるからです。

 素材によっても変わります。同条件で染めても、絹と木綿、麻、ウールでは全く発色が違う。ウールだってアンゴラとカシミヤでは違うのです。

 そこが面白い。会社に染色部屋を造り、自分で染めて色の出具合を確認していました。にもかかわらず、60代の半ばごろから、色が見分けにくくなってきたのです。

 経験則から「この色とこの色が合うんじゃないかな」と合わせてみると、違和感がある。照明を変えたり自然光の下に持ち出したりして何度も見直し、ようやく決めるという状態でした。例えば私の服でよく使う黒。漆黒から、赤っぽい黒檀、青みが強い紫黒、黄色が強い暗黒色など何種類もあります。60歳ごろまでは微妙な色合いも瞬時に見分けられたのに。

 ▽再びクリアに

 白内障治療の専門医を紹介していただいたのは70歳になる直前です。受診したところ、レンズの働きをする水晶体の中心部が硬くなる「核白内障」と、水晶体の後ろの方が濁る「後嚢下(こうのうか)白内障」がミックスしていたそう。核白内障が進行すると、もともとは透明な水晶体が黄色から茶色へと変化するらしく、「微妙な色の違いが分かりにくくて大変だったでしょう」と言われました。

 両眼の水晶体を取り除き、眼内レンズを移植する手術を受けました。大事をとって1泊入院しましたが、手術自体はあっという間。点眼による麻酔だったので意識もあり、体の負担はほぼ皆無。眼鏡を替えても替えても0・8程度しか見えなかった視力は、1・2まで回復しました。もちろん、色もクリアに見えるようになりました。

 以前より意識するようになったのは光です。加齢で色が見分けにくくなる人は少なくない。一方で、似合う色も変わってきます。顔周りに使う素材などは、考えますね。

 ▽意識変えたい

 白内障の経験で感じたのは、自分の体の小さな変化に気づくことの大切さ。人生100年時代、長く元気でいたいじゃない? 最近は運転中の信号待ちの時間にも手のひらを日光浴させてます。骨粗しょう症予防よ。笑われそうだけど、日頃の積み重ねが大切でしょ。

 日本社会にまん延する「若さに価値がある」という意識を何とか変えたい。年齢を重ねたからこその美しさがあると思うのです。それを女性に知ってほしい。だから私も健康で、女性を美しく見せる洋服を作り続けたいと思っています。

(聞き手・三好典子、写真・牧野俊樹)

◎稲葉賀恵(いなば・よしえ)さん 1939年東京生まれ。文化学院卒。70年に元夫でデザイナーの菊池武夫さんらとファッションブランド「BIGI」を立ち上げ、72年には自身で「MOGA」をスタート。現在「yoshie inaba」のクリエーティブディレクター。

◎白内障 目でカメラのレンズの役割をする水晶体が白く濁り、物が見えにくくなる病気。最大の原因は加齢。早い人は40代から、80代では大半の人に見つかる。白濁した水晶体を取り除き、眼内レンズを挿入する手術が広く行われている。

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