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脳に直接投与の治療薬承認 ムコ多糖症2型で世界初 知的発達の改善期待

2021.5.25 18:43
 不要な物質が分解されずに体内にたまってしまう「ムコ多糖症2型」という先天性の希少疾患に対する新しい治療薬が今年1月、厚生労働省に承認された。この病気の薬としては世界で初めて、脳に直接投与する。知的発達の遅れなど、患者の約7割にみられる中枢神経症状の改善につながることが期待されている。
新薬の開発を主導した国立成育医療研究センターの奥山虎之医師
新薬の開発を主導した国立成育医療研究センターの奥山虎之医師

 ▽5万人に1人

 ムコ多糖症は、生まれつきの遺伝子異常で特定の酵素が足りないため、全身の細胞にムコ多糖という物質が蓄積し、発達の遅れや機能の低下などが起きる進行性の病気だ。全部で七つの型があるが、「ハンター症候群」の別名もある2型の重症例では、10代で寝たきりになることもある。発症頻度は約5万人に1人とされる。
 根治療法はなく、不足する酵素を点滴で補充する治療法をできるだけ早く始めることで、呼吸器の障害や肝臓の肥大といった症状の改善を図る。
 一方、人体には、脳を異物から守る「血液脳関門」と呼ばれる仕組みが備わっており、血管に酵素を入れても脳の細胞にはなかなか届かない。このため知的発達の遅れや、それまで出ていた言葉が出なくなるといった退行現象を抑えることはできなかった。
 ▽医師主導で治験
 医師としてこの病気の診療に長く携わってきた国立成育医療研究センター臨床検査部の奥山虎之統括部長が「何か手だてはないか」と考えたのが、頭皮の下に医療器具を埋め込み、脳の中心にある「脳室」へ酵素を直接投与する方法だ。脳腫瘍に対する抗がん剤投与などで用いられているという。
 だが、ムコ多糖症の薬は国内では製造されておらず「日本にこだわっていればいつまでたってもできないと思った」と奥山さん。ムコ多糖症の専門家である親しい韓国人医師から、2型の酵素製剤を開発していた韓国の製薬企業「GCファーマ」を紹介してもらい、2016年から成育医療研究センターを中心に日本で医師主導治験を始めることができた。
 
 

 

 治験では2~6歳の患者計6人に対し、4週間に1回の頻度で3年間、脳室内に薬を投与した。すると、3歳になる前に治療を始めた3人には、発達の遅れや退行現象が見られなかった。この結果を基に昨年、厚労省に承認申請が行われ、今年1月に認められた。販売名は「ヒュンタラーゼ」になった。
 ▽患者会の期待
 わが子がムコ多糖症6型を患っている「日本ムコ多糖症患者家族の会」の秋山武之さんは、新治療法の登場を「患者の生活の質向上や家族の負担軽減につながるのではないか」と歓迎する。
 同会の18年度の調査によると、患者や家族は生活に多くの課題を抱える。回答者(138人)の6割余りが、患者の生活に介助が必要とし、患者の約9割が身体障害者手帳や療育手帳を取得していた。
 秋山さんは、治療薬が世界に先駆けて承認された点にも注目している。ムコ多糖症の薬は、日本での承認が海外より遅れる「ドラッグ・ラグ」が長く問題となってきた。秋山さん自身も国への働き掛けなどに奔走してきたからこそ「日本で初めて承認された意味は大きい」と強調する。
 治療薬は医療費助成の対象となるため、個人負担はない。海外でも承認申請される見込みだという。
 奥山さんは「今後は、できるだけ早く病気を見つけて、従来の治療と一緒に脳室内に薬を投与することで、症状の改善や進行の抑制につなげていきたい」と話している。(共同=岩切希)

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