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等身大のがん患者知って 当事者が発信を模索  専門医も期待のエール

2019.5.4 0:00

 がんの予備知識がない人に向け、がん患者が治療や仕事、子育てなどの体験を発信する活動が増えてきた。患者の生存率が上がり、治療しながら働く人も多いのに、医療以外の実情に関する情報が圧倒的に不足しているとの問題意識からだ。オープンな語りは、等身大の患者像を社会に広げるのに役立つとして、がん専門医もエールを送る。

 ▽患者の方が詳しい

 25歳と27歳で「胚細胞腫瘍」という珍しいがんになった岸田徹さん(31)は、がん経験者へのインタビューをインターネットで配信する「がんノート」という活動を2014年から続けている。

体験を語り合う岸田徹さん(左)と兄の剛さん
     体験を語り合う岸田徹さん(左)と兄の剛さん

 「治療の専門的な情報は医療者が持っているが、それ以外の情報は患者が一番詳しい」と痛感した岸田さんが聞き手となり、抗がん剤の副作用や仕事と治療の両立、人間関係など幅広いテーマの患者の語りを生中継する。昨年12月には第100回を記念し、17年にがんを経験した兄の剛さん(38)をゲストに迎えた。

 現在闘病中の患者に役立ててもらおうと始めた活動だが「級友や同僚の闘病を初めて想像できた」など当事者以外からの感想が増えた。「がんになった友人との接し方を教えて」「家族や遺族の話を聞きたい」といった要望も寄せられるようになり、岸田さんは「患者以外のニーズにどう応えていくかが課題になってきた」と話す。

 ▽理解は不十分

 日本社会は、働きたいがん患者を受け入れる職場環境になっているか―。国立がん研究センターと日経BP社などの共同プロジェクトが昨年ネットで実施した意識調査で「そう思う」と答えたのは3割に満たなかった。

 
 

 生涯にがんになる人は2人に1人といわれる日本で、がん患者の5年生存率は6割を超え、働く世代の患者は25万人以上(数字は国立がん研究センターなどによる)。しかしサポート体制や理解は不十分だ。

 子どもを持つがん患者の会「キャンサーペアレンツ」を16年に立ち上げた西口洋平さん(39)も、言い出しにくい雰囲気を常に感じている。

 35歳の時、進行した胆管がんと診断され「死ぬのは怖い」と苦悩した。職場にどう伝えるか、まだ6歳の娘に何と説明すべきなのか、当時は自分で答えを出せなかった。

 同じ思いの人とつながりたいと会員制交流サイト(SNS)を中心に活動を始めると、3100人余りが登録。「子どもと病気の話をする助けに」と絵本を制作したり、企業と共同で患者の悩みを調査したりするなど多様な活動に結びついた。

 ▽家族連れも関心

 昨年9月には、スキルス胃がんの患者と家族でつくる「希望の会」などとともに埼玉県越谷市のショッピングセンターで初めてイベントを開催。医師らの講演のほか、患者が本音を語るトークや、がんに関する子ども向けクイズコーナーなどに、買い物袋を提げた人や家族連れが次々と訪れた。関心の高さに西口さんらは手応えを感じ、次の開催を検討している。

ショッピングセンターでのイベントで、がん患者の実情について話す西口洋平さん
ショッピングセンターでのイベントで、がん患者の実情について話した西口洋平さん

 「お涙頂戴のドラマは患者の実情を伝えていない。こういう活動が、ありのままの僕らを知ってもらうきっかけになる」と西口さんは考える。

 国立がん研究センター中央病院患者サポート研究開発センター長の朴成和医師は「体験者だからこその言葉は、人の心に響く」と患者発の情報を評価した上でこう話す。

「医師として治療には当然ベストを尽くすが、患者さんの生き方に関わる部分では、できることに限りがある。患者さんは成功も失敗も、いろいろな経験を発信してほしい。それは必ず、がんと向き合う人々の役に立つと思います」

(共同通信 山岡文子)

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