早期検査の効果を検証 がんゲノム医療で研究 「標準治療後」に限界

2022年04月12日
共同通信共同通信
 患者のがん組織に起きている遺伝子の変化をまとめて検査し、効きそうな薬を探す「がんゲノム医療」で、検査のタイミングを早める研究に国立がん研究センターなどが取り組んでいる。現在は標準治療が終わった後の検査だけに公的医療保険が適用されるが、早い段階で検査した方がメリットが大きいとの指摘があるためだ。それを支持する結果が出れば保険適用範囲の見直しにもつながると、専門家や患者団体が注目している。

 
 

 

 ▽100超を検査
 がんができるのは、遺伝子に異常な変化が起きるのが主な原因。特定の遺伝子異常があると効果が高い薬もあるため、抗がん剤治療の前に患者のがんの遺伝子検査が行われる場合が増えてきた。
 2019年6月には一度に100以上の遺伝子の変化を調べる「パネル検査」が保険適用された。これが「がんゲノム医療」と呼ばれており、国内では「NCCオンコパネル」や「ファウンデーションワン」など3種類の検査が利用できる。
 厚生労働省が指定する「がんゲノム医療中核拠点病院」など全国約230施設で、患者のがんの一部や血液を分析してどの遺伝子に異常があるかを見つけ、効果が見込める治療薬の候補を専門家の会議で探す仕組みだ。
 ▽恩恵は8・1%
 ただ同省によると、20年8月までの1年間に検査を受けた7467人のうち、結果を基に選ばれた薬の投与を受けたのは8・1%にとどまった。
 理由は、検査の保険適用の範囲が、日本臨床腫瘍学会など3学会が17年に作成した指針に従って「標準治療がない、または終わった固形がん(血液以外のがん)の患者」に限られているためだ。京都大の武藤学教授(腫瘍薬物治療学)は「標準治療が終わるまで待つと、患者の状態が悪かったり、がんに薬への耐性ができたりしていて検査を受けてもなかなか治療につながらない」と話す。
 米国やオーストラリア、韓国では必要なタイミングで検査が可能。国内でも3学会が20年に指針を改定し「標準治療後に制限する科学的根拠は乏しい」とし、最適な時期を検討するよう求めた。
 ▽有用性最大限に
がんゲノム医療の検査時期を早める試みについて説明する国立がん研究センター中央病院の山本昇先端医療科長
がんゲノム医療の検査時期を早める試みについて説明する国立がん研究センター中央病院の山本昇先端医療科長

 

 それを受け国立がん研究センター中央病院などは20年、治療を開始する時点で検査を実施する取り組みを「先進医療」として開始した。乳がんや大腸がんなど6種類のがんの計200人に実施するのが目標で、遺伝子変化に合った治療を受けた患者の割合や、症状が悪化せずに過ごせた期間を分析し、早期検査の有効性を検証する。
 山本昇先端医療科長は「早い段階の検査により、遺伝子異常に合った治療の機会が増えるのを期待している。検査時点で薬がなくても、標準治療を受けつつ新薬の臨床試験が始まったら参加する選択肢もある」と話す。
 京大なども同様の先進医療を21年5月に開始。化学療法を始める前の180例を対象に、がんに関連した遺伝子変化が見つかる割合や、専門家が勧める治療が見つかる割合を調べている。
 武藤教授は「標準治療後という制限をなくせば、患者の選択肢は増えて治療方針を早く決められる。パネル検査の有用性を最大限に引き出せる仕組みにしないといけない」と強調。データが集まったら国に出して、保険適用の範囲を見直す議論につなげたい考えだ。
 膵臓(すいぞう)がんの患者支援団体「パンキャンジャパン」の真島喜幸理事長は「転移性の膵臓がんだと5年後の生存率は1%。標準治療後の検査で効きそうな薬が見つかっても遅い」と指摘。「ゲノム医療があるのに使えない状況は変えてほしい。患者にも希望になる」と話す。(共同=岩村賢人)