【5056】五稜 亀尾産吟風 特別純米 辛口(ごりょう)【北海道】


【B居酒屋にて 全5回の➁】
飲兵衛は年末、なじみの酒屋を挨拶回りする。俗に“檀家回り”ともいう。飲む口実が出来、飲兵衛にとって年末は楽しい時季だ。もちろんB居酒屋に顔を出す。おそらく2022年、わたくしが一番多くの種類の酒を飲んだのは、このB居酒屋であるのが間違いのないところだから。というよりは、断然トップだ(笑)
最初にいただいたのは「日高見 弥助 芳醇辛口純米吟醸」。続いて飲んだのは「五稜 亀尾産吟風 特別純米 辛口」だった。上川大雪酒造は、北海道に進出した新規参入蔵だが、味が評判を呼び、創業間もないのにもかかわらず、いま、日本で最も元気な酒蔵の一つとして注目されている。上川大雪酒造のお酒は当連載でこれまで、3種類を取り上げている。
上川大雪酒造のホームページを要約すると、設立からこれまでに至るまでの概略は以下の通り。
社長の塚原敏夫さんは1967年、北海道札幌市生まれ。小樽商科大学卒、野村證券(株)、外資系金融機関などを経て (株)三國プランニング代表取締役(現職)。世界に通用する日本酒(地酒)を醸し、『6次産業化地方創生ビジネス』のイノベーションを目指すため、日本酒の製造を休止していた三重県の酒造会社を、北海道上川郡上川町に移転し、上川大雪酒造を設立。2017年5月、「清酒及びリキュール製造場移転許可通知書」を受けた。
北海道の同地を選んだ理由を、「流通やコストよりも酒造りの環境を最優先。日本で一番短い夏と長い冬。大自然が与えてくれる理想の酒造り」としている。つまり、冷涼な気候と大雪山系の伏流水こそが、日本酒づくりに最適、と判断したのだった。また、地元産米を使用することを基本理念とし、北海道産の酒造好適米「彗星」「吟風」「きたしずく」の3品種を使用することにしている。
上川大雪酒造はさらに2020年春、国立大学法人「帯広畜産大学」との産学連携の取り組みとして、同大学キャンパス内に酒蔵「碧雲蔵」を開設し、2020年秋から本格醸造をスタートさせた。北海道国立3大学経営統合(小樽商科大学・帯広畜産大学・北見工業大学)の象徴となる事業とし、農業から加工技術を経て、マーケティングして消費者に届ける、6次産業化地方創生ビジネスのイノベーションを目指す。大学キャンパスに酒蔵を造るのは全国初だ。総杜氏の川端愼治さんが、帯広畜産大学の客員教授に就任した。
上川大雪酒造はさらに2021年、産学連携の取り組みとして函館工業高等専門学校と、函館市立亀尾小中学校跡地に酒蔵「五稜乃蔵」を創設した。酒蔵では、地元の「酒米」「水」等を利用した地酒製造、関連商品の開発を行うとともに、函館高専の研究施設も併設し、醸造学や醸造技術の教育研究、人材育成を目的とした連携を推進する。
函館市は北海道有数の観光都市でありながら、地酒が無いのが悩みだった。このため、小樽市や兵庫県の酒蔵に頼んで、函館ラベルの酒を造ってもらい、観光客に提供してきたいきさつがある。上川大雪酒造の蔵建設により、天下晴れて函館地酒を観光客に提供できることになる。
前置きが長くなった。いただいてみる。
バナナ香、セメダイン香(酢酸エチル)などが感じられる爽やかな果実香。さっぱり、すっきりとした軽快な口当たり。味わいでは、酸と辛みが味の主体。旨みは適度。余韻は苦み。味のバランスが良い。さまざまな味が出ている中、酸がいい。ややモダンタイプ寄りのライトボディー酒。あるいは薫酒と爽酒が一緒になったタイプ。飲み飽きしない酒質なので、食中酒や毎日の晩酌酒に最適だ。
瓶のラベルのスペック表示は「原材料名 米(北海道産)米こうじ(北海道産米)、原料米 亀尾産吟風100%、精米歩合60%、アルコール分16度、製造年月2022.08」。亀尾とは、函館市内の地名。
使用米の「吟風」(ぎんぷう)は、北海道立中央農業試験場が1990年、母「八反錦と上育404号の子」と父「きらら397」(主食用米)を交配、選抜と育成を繰り返し品種を固定。1999年に命名、2002年に品種登録された、北海道で栽培されている酒造好適米だ。
酒名「五稜」は、著名な城郭「五稜郭」に由来するものとみられる。