強い心は困難に負けない 悟りきった「ゲームフェース」で試合に臨め

2022年12月08日
共同通信共同通信
中村 多聞 なかむら・たもん
入れ替え戦に向けて電通のRB陣を鍛える中村多聞さん=電通キャタピラーズ提供
入れ替え戦に向けて電通のRB陣を鍛える中村多聞さん=電通キャタピラーズ提供

 

 さて、今回は前回の続きっぽい内容です。僕がコーチをしているXリーグ、X1エリアの電通キャタピラーズは、今週末に最高峰のX1スーパー昇格を目指してオール三菱ライオンズとの入れ替え戦に出場します。

 X1エリアで1位になり、この入れ替え戦に出られるのは、現在の我々が到達できる最高地点です。レベルの違いこそありますが、日本選手権のライスボウルや学生チャンピオンを決める甲子園ボウルなどと同じ意味を持ちます。

 強大な敵と対峙する時にどうするのがいいのか。方法はいくつかあると思いますが、僕の経験に基づいて考えをお話したいと思います。過去からさかのぼり、失敗例と成功例を検証してみたいと思います。

 子どもの頃から競技スポーツに親しんでいますので、僕自身いろいろなレベルでの試合はもちろん、プレーオフやチャンピオンシップゲームを戦った経験があります。

 「勝てるだろう」と楽観的に臨める場合もありましたし、「これはかなり大変だぞ」という挑戦もありました。子ども時代から順にどのような心持ちで競技に向き合っていたのかを紹介します。

 競泳や水球をしていた小学生時代「これは遊びじゃなくしっかりと結果(表彰台に上る)を出さなくてはならないのだ」と、試合や大会の状況を理解していました。

 練習は厳しい中でしっかりやっていましたし、多くのことを先輩やコーチから聞かされて試合に臨みます。でもまだまだ子どもですし試合経験が少ないので、教えられたことを試合の最中にしっかりと思い出して力を発揮するというのは非常に困難でした。

 勝ちきれず残念ながら全国大会で3位に甘んじました。悔しい思いをしてからの練習は前年度よりもきつく厳しいものでした。

 でも、試合中のどんな場面で何が必要だからこの練習をするのだ。敵はどのくらい強くて勝つのはとても困難であるという理屈を、経験則の中で子どもなりに理解し、本当の意味で上達を願って練習に打ち込みました。

 大会ではみんながドキドキと緊張するわけでもなく、自信を持った状態で当たり前のように全国優勝を決めました。これは失敗と成功の両方です。

 冬季にはアルペンスキーも本格的にやっていました。初めてのレースではレース場独特の雰囲気に飲まれ、滑るコースの難易度が自分の能力を大きく超えており、練習してきた実力を出すにはほど遠いものでした。

 転倒せずにゴールすることが目的になってしまうほどで、速さを競うなどはとても無理だと感じていたことを思い出します。

 しかし、これも何年か経った時には以前は動揺していたコースの難易度(カチカチに凍っている)や、吹雪いてきた時の寒さや痛さなどは想定内のこととして準備し、レースではどの場面で自分の得意な部分出すのか、どの部分では注意していくのかなど、勝つための準備ができるようになってきたのです。

 ターンの度に練習してきたことが頭をよぎり「ここはこう、ここはこれ」と、落ち着いてリズム良く滑れるようになってきたのです。

 フットボールでは実力が半端な頃「試合はゲームだ! 普段の努力をお披露目する楽しい日なのだ!」なんて現在唱えている発想などなく、勝負の場であり戦いの場として毎回毎回とにかく挑戦していました。

 自分の実力が相手よりも下回っていた時は特にそうです。新しい作戦を練習しても言われた通りの動きが全然できない。何を注意されているのかもイマイチ理解できない。上手な人のお手本を見せてもらっても違いが分からない。

 こんな状態ですからフォーメーションの意図やそこで使用する連続したスキルなど、身につくはずもなく叱られ続ける毎日です。命じられた役割の意図や意味が理解できないので、役に立つ仕事が極限の試合中にできるわけがありません。

 失敗や叱責にビビっているレベルなので話になりません。せいぜい力任せで無茶をしてマグレで少しだけ活躍をする程度です。

 NFLヨーロッパでは、あまりにもエグいレベルでのプレー経験を経てかなり上達しました。迷い、ミス、疲れのいずれが原因だろうと関係なく、ほんの少しでも力を出し損じるとたちまち吹き飛ばされてしまうのですから、練習でも試合でも全ての力を出し切る必要がありました。この訓練は指導者となった現在、僕が最も重要視して厳しく監視することの一つです。

 この訓練によって、自分の能力を全て出し切る準備ができるようになりました。相手の強さは関係なく、自分のできることを確実にやる。これが可能になると、自分のやったことが相手にとって全く影響がなかろうと、跳ね返されようと、押し返されようと、全く関係なくなりました。

 結果ではなく、自分のやることを粛々と実行する。駄目でもまたやる。気持ちが萎えるとかそういう問題は一切関係なく、とにかく実行し続けられるようになったのです。無欲で雑念なしです。

 以前の僕だと「良い結果」というエサが欲しいので、効果がないとどうしても「あれ、意味ないのかな?」「困ったなあどうしよう?」と考えがちでしたが、効果がないように感じてもとにかくやり続けることが大切です。

 フットボールは接触のある競技ですので、相手に接触してからどうなるかを考えがちですが、まず自分が命じられた作戦遂行上の注意点を全て思い出し、スキルを駆使して敵に近づくか逃げる。

 この後のことは相手との実力差で変化しますが、接触するまで自分に何ができるかを考えると、勝ち負け気にせず割り切って向かっていくことになります。

電通の選手に厳しい練習を課す中村多聞さん=電通キャタピラーズ提供
電通の選手に厳しい練習を課す中村多聞さん=電通キャタピラーズ提供

 

 強大な敵と勝負する時、全身全霊をかけてプレーせざるを得ないので心も体もいつもより早く消耗します。サッカーのワールドカップで戦う選手たちは、試合終盤になると全員が疲労で顔が険しくなってきているのを皆さんも見たと思います。

 苦しくつらい時、チームのために何ができるかがチームスポーツの選手としては非常に大切なのです。

 勝っている、負けている、点差が大きい小さい、天候が良くない、歓声がうるさい、あらゆる種類の向かい風が吹く中で自分に何ができるのか。「余計な感情を持ち込まず、平常心で戦おう!」と、何度もこのコラムで書いています。

 無駄に厳しく見える「タモン式RB練習方法」は、ピンチに備えるために考案したものです。これまでの訓練は、量も質も与えられた環境下では最大限にやってきたと思います。

 電通キャタピラーズのRBはよく頑張って食らいついてきました。試合ではいろんなことが起こるので、頑張ってきた努力が必ずスコアボードに反映されるとは限りません。

 長い時間をかけて培ってきた心の強さは、当日の困難に負けることはないはずです。そのくらいのことをやってきました。

 結果を心配せず力を最大限に発揮したら、現在の自分の戦闘力を知ることができます。そして近い未来のもっと成長した自分と比較するのが楽しくなるのです。

 僕自身、戦力的には優位な試合で油断し、おごってしまい負けた試合がたくさんありますし、そのまま押し切って勝利したこともあります。もちろん実力不足でねじ伏せられた経験もあります。

 これらは全て当日や準備段階での「心の問題」だと思っています。作戦や選手の力量だけが勝敗の決め手ではないのです。

 入れ替え戦の当日は、電通キャタピラーズのRB陣の悟りきった面構え「ゲームフェース」を見るのを楽しみにしています。

 

 
 

中村 多聞( なかむら・たもん)プロフィル
1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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