心が乱れるなら「一喜一憂」するな 大活躍する高揚感を求めよ

2022年11月24日
共同通信共同通信
中村 多聞 なかむら・たもん
アサヒ飲料時代に社会人で2連覇して喜ぶ中村多聞さん(27)=中村多聞さん提供
アサヒ飲料時代に社会人で2連覇して喜ぶ中村多聞さん(27)=中村多聞さん提供

 

 サッカーのワールドカップが始まりましたね。強豪のドイツに日本が勝利するってすごいですね。

 普段はサッカーを見ませんが、世界最高峰の選手たちの真剣勝負をいくらでも観察できますし、各テレビ局も代表選手に取材したり特集を組んだりしたりで、それぞれ皆さんがなぜこのレベルまで上がってこられたのかを解明してくれて、とても興味深く見ています。

 

 国の代表に選ばれるような人のバックボーンはすさまじいですね。過去の経験はもちろん、人間力や考え方など全てが「トップのスポーツ選手」だなあと感心しています。

 若年層の競技人口が非常に多いサッカーでトップに上り詰めた方々ですから、見習うところばかりです。是非アメリカンフットボールの皆さんも彼らの生き様や人となりを参考にしてはどうでしょうか。

 

 さて今週は競技中の喜びや悲しみなどの感情表現について、僕の意見を披露してみたいと思います。

 僕自身は学生時代に規律とは無縁のチームで遊んでいただけなので、テレビで見る日本大学、関西学院大学、京都大学の真剣な取り組みに心底憧れていました。

 僕らは60点差で敗戦した直後に楽しく宴会ができるチームでしたので、全員が笑顔も見せず戦う姿は異様にも感じましたが、自分は真似できない境地だと理解していました。

 

 そんな時代でしたが、突如として甲子園ボウルに笑顔やガッツポーズをする専修大学グリーンマシーンという、関西人の僕には全く馴染みのないチームが現れました。

 15分クオーターで催される大イベントだった関東大学リーグの決勝戦「パルサーボウル」で、日大を相手に彼らの見せる笑顔やうれし涙は、衝撃的でした。目標は高いところに置いていた僕ではありましたが、やはり楽しそうなフットボールには憧れました。

 

 しかし、自分が在籍してしまった日大OBが中心メンバーの実業団チーム「三武ペガサス」は、試合に勝っても誰も笑いません。

 ファインプレーや独走タッチダウンを決めてもガッツポーズすらなし。歯も見せません。せいぜいベンチで小声で「ナイス、ナイス」と言い合う程度です。

 ボロ勝ちしても試合後のハドルはお通夜のようで、素人だった僕はここで一旦バランスを失いました。

 

 「楽しそうにプレーしていた専修大も甲子園ボウルに出たんだから、あれも正しいんじゃないか。でも、これまでテレビで見ていたチームはどこも笑顔なしだったし、正しいのはどうやら笑わない方か。うーんどっちや?」と、まあ今思えば呑気な悩みです。

 

 僕自身はお調子者ですので、タッチダウンしたら踊ったりと「三武ペガサス」のアイデンティティーにそぐわないような行為をしていました。試合に負けて泣いたこともありましたが、NFLを見て「どこまでなら反則をとられずに踊れるか」なんて一生懸命考えていました。

 今考えれば、そんなことより大切なことはたくさんあったのですが、見えていなかったんですね。その理由を考察しました。

 

 今年は2022年で、あれから約30年が経っています。ご承知の通り笑わずガッツポーズをしないチームなどありませんし、ギャーギャー大騒ぎして盛り上がって楽しめばいいと思います。優勢でも劣勢でも、仏頂面でドンと構えるのもカッコいいですけどね。

社会人チーム「三武ペガサス」でプレーしていた頃の中村多聞さん=中村多聞さん提供
社会人チーム「三武ペガサス」でプレーしていた頃の中村多聞さん=中村多聞さん提供

 

 ある時、試合で奇抜な作戦を実行し大成功に終わったプレーがあり、選手たちは大喜びでした。しかしNFLと違い、日本のフットボールはプレーを開始しなさいの合図「レディーフォープレー」がすぐに審判から発せられます。

 

 NFLですとテレビコマーシャルの時間に入ったりして、ファインプレーをチームメート同士で喜ぶ時間があるんですけどね。それで自分の出番であることを忘れてしまい「次のプレーに間に合わない事件」が起こってしまいました。

 まあこれはそれほど害はありませんが、ちょっと喜びすぎじゃないかなと昔はチーム一のお調子者だった僕でも感じてしまいました。

 

 そのあたりを気にして試合を観察していると「イェーイ!」「ヤッホー!」的な喜びを表現する人の多いこと。みんなニコニコして楽しげなのです。自分の所属するチームだけではなく、試合の放送を見ていても同じです。

 その割に、まずい状況になるとベンチエリアにいる全員が「こりゃまずい」という雰囲気を全力で醸しだし、ムードは更にまずくなります。選手やコーチだけでなく、スタッフやトレーナーもマイナスのオーラを放ちまくっているのです。

 

 こういうのを「一喜一憂」と表現し、勝負強い指導者は昔から忌み嫌いますよね。意味を国語辞典で調べると「情勢の変化につれて喜んだり心配したりすること」と書いてありました。

 なぜ「一喜一憂」するのか? 素人で馬鹿だった昔の自分を思い出せば分かります。そうです、自信がないから、活躍できる確証がないから、たまにチームの役に立つと嬉しくて仕方ないんですね。

 でも活躍はしたいしエエ格好もしたい。努力もそれなりにしているけど、試合となれば敵も本気ですから簡単には活躍させてくれませんもんね。実力が低ければしっかりと役に立つ結果を出す確率も低くなります。当然です。だから良い結果が出ると嬉しくて仕方がなくなるのです。

 「この循環なんだ!」と、コーチ同士で話していて馬鹿で下手だった昔の自分と照らし合わせて理解ができました。「なんであんなことで彼らは喜んでんの?」と、ここ20年ほど本気で思っていたのです。

 

 自分がそれなりに強いチームのエースとなりチームの看板を背負ってプレーできるようになってからは、失敗するプレーが圧倒的に少なくなっていき、ちゃんと仕事を済ませることや、良い結果を生んだことに喜びではなく安心をしていました。

 何も感じず「至極当然である」と考えて、次に備えて息を整え集中するという繰り返しです。

 

 拮抗している試合を決するようなゲインや得点なりを自分が力ずくで奪取し、そのことで相手が萎えたのを見たら、やっとその日の仕事と目的が終了し「祝、勝利!」ですので、そこからは昔の馬鹿な中村多聞に戻って悪態をつく、という構図でした。

 余談ですが、自分じゃないチームメートの活躍で試合が決まったら不機嫌になっていたことも思い出しますね。

 

 試合で役に立つようになると、自身の出す結果がある程度予測できます。それはこちらが優勢な状態を想定しています。その結果を得るために長い年月をかけて膨大なエネルギーを費やして努力を重ねてきているわけです。

 大きな試合ですと、だいたい60回から80回ほどの出番があり、予想どおりの事象が数十回程度あっても、当たり前すぎて一々吠えていられないというのもあります。大声を出すって体力を消耗しますからね。

 

 試合中にジャンプして喜んでいる選手はまだまだ未熟です。常にえげつないプレーをして、試合を決められる選手を目指すべきです。

 失敗したり、劣勢になっても悲しんでいる時間は無駄なので、すぐに忘れて次に備える。活躍するのに慣れてきたら、大活躍しないと高揚感は足りなくなりますからね。

 

 自分の喜びのためにやっているのですから、何に喜んでも僕がとやかく言う権利はありませんが、手軽に得られる喜びで満足せず「大活躍する高揚感」を求めるのがカッコいいと思います。

 なんてことを、喜びすぎて自分の出番を忘れてしまう選手に説教しました。心が乱れてしまうなら「一喜一憂」するな、ということです。

 

 
 

中村 多聞( なかむら・たもん)プロフィル
1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。