できるか「マラリア制圧」 初のワクチンに期待 国内でも研究進む

2022年12月06日
共同通信共同通信
 熱帯感染症のマラリアは有史以来、人類を苦しめてきた。最近になって世界保健機関(WHO)が感染を防ぐためのワクチンを初めて推奨し、制圧に向けた新たな一歩が始まった。ただ発症を予防したり、流行を抑えたりするための有効な手だては研究開発の途上。マラリア特有のタンパク質に着目して新たなワクチンや検査手法を開発する愛媛大の高島英造准教授は「手ごわい相手だが弱点も見えてきた。いつか制圧できる日が来ると信じている」と話す。
アフリカのケニアでマラリアワクチンの接種を受ける子ども=7月(ロイター=共同)
アフリカのケニアでマラリアワクチンの接種を受ける子ども=7月(ロイター=共同)

 

 ▽複雑なサイクル
 人類とマラリアの付き合いは長い。病原体のマラリア原虫はもともと森林にすむ哺乳類を宿主としていたが、人にも感染するようになった。ローマ帝国の拡大、大航海時代など文明とともに世界中に広がった。
 現在はアフリカや東南アジアを中心に年間2億人以上が感染し、数十万人の命を奪う。死者の大半が5歳以下で、2分間に1人の子どもが亡くなっているとされる。
 マラリア原虫は熱帯にすむ蚊のハマダラカが媒介する。人を刺した蚊が病原体の運び屋となって感染を広げる。
 感染サイクルは複雑だ。蚊の腸内でマラリア原虫の生殖母体から細長いスポロゾイトが作られ、吸血時に人の体内に侵入する。血流に乗って肝臓の細胞に感染し、ここで粒状のメロゾイトに分化。これが赤血球に入り込んでさらに増殖し、一部が生殖母体になる。別の蚊がこうした状態の人を刺すと、腸内に生殖母体が運ばれて新たなスポロゾイトをつくり出す。
 ▽希望
 WHOが昨年推奨したのが初の「感染阻止ワクチン」となる「モスキリックス」。健康な人に打つと免疫の働きでスポロゾイトが肝臓に感染するのを邪魔する抗体ができる。アフリカの子どもの臨床試験では30%前後の予防効果がみられた。
 WHOが目標に掲げる75%の効果には遠いが、長く失敗が続いてきたマラリアワクチン開発では初めての成果。国連児童基金(ユニセフ)も1800万回分の接種キャンペーンに乗り出した。
 
 

 


 高島さんは「熱帯熱マラリアは最初の感染では死亡率が高いが、過去の感染で免疫があると症状が軽くて済む。ワクチン接種で免疫を持たせることで幼い命を救える希望がようやく見えてきた」と語る。
 ▽見えない流行
 ただ課題もある。このワクチンは接種を重ねても時間がたつと効果が弱まってしまう。感染だけでなく発症を防ぐためのワクチンも必要だ。
 高島さんのチームは、さまざまなタンパク質を効率的に合成する手法を使い、メロゾイトが赤血球に入り込むのを抑える抗体を誘導する物質「PfRipr5」を発見した。発熱から意識障害に至るマラリアの症状はこの段階から起きる。これを使えば「発病阻止ワクチン」ができそうだ。
 国内の製薬会社と臨床試験に向けた開発を始めた。「安全性や効果を確かめて実用化につなげたい。感染阻止ワクチンと併用することで死者を減らせる」とみる。
 一方、WHOは「伝搬阻止ワクチン」の開発も呼びかける。免疫を持つ人が増えて死者が減っても、マラリア原虫は人と蚊の間を行き来しながら残る。このサイクルを断ち切らない限り流行を抑え込むのは難しい。
 伝搬阻止ワクチンは人に接種した成分が蚊の体内に運ばれ、生殖母体の働きを邪魔する仕組み。高島さんらはこのタイプのワクチンに加え、免疫を持った人の〝見えない〟マラリア流行を血液検査で素早く捉える手法を開発している。「アフリカで実際に応用して国際保健に貢献したい」と話す。(共同=吉村敬介)