運動習慣どう高める?  ハードル上げず始めて 促進効果出るまで5年

2022年11月22日
共同通信共同通信
 体を動かすのは健康に良いが、毎日続けるのは難しい。鳴り物入りで開かれた東京五輪・パラリンピックも、多くの人が運動を始めるきっかけにはならなかったようだ。東京大の鎌田真光講師(運動疫学)が島根県や神奈川県で行った研究では、運動習慣を持つ住民を増やすための自治体の取り組みには5年程度の継続期間が必要なことが分かった。鎌田さんは「最初にハードルを上げすぎないのが肝心。まずは背伸びなどのストレッチや軽い散歩から始めてみて」と話す。
 ▽五輪評価に疑問
運動習慣を高める取り組みについて話す東京大の鎌田真光講師
運動習慣を高める取り組みについて話す東京大の鎌田真光講師

 


 東京五輪の組織委員会の報告書は、国民のスポーツ実施率が2016年の42・5%から20年に59・9%に向上したと総括する。これが本当なら五輪開催によるレガシー(遺産)の一つと言えそうだが、鎌田さんはこの評価に疑問を投げかける。
 17年に国の調査項目に「階段昇降」がスポーツの選択肢に新たに加えられたのが問題点。以後の調査で実施率を押し上げる要因となった。「前後の比較に用いるには不適切なデータだ」と鎌田さんは指摘する。
 そこで鎌田さんと国内外の研究者のチームは、調査項目が一貫した「国民健康・栄養調査」などのデータを分析。すると五輪開催が決まった13年を挟み、06~20年の間に歩く歩数や運動習慣、スポーツ実施率に大きな変化はみられなかった。「20年までの期間では国民全体の運動促進につながったとは言えない」と結論付けた。
 ▽メッセージ
 健康づくりのため国や自治体が運動を呼びかけるキャンペーンは多い。ただ健康意識が高い人は参加するが、体を動かさない人にはメッセージが届きにくいのが課題だ。
 「活動を底上げするにはどんな手法やメッセージが有効だろう」。鎌田さんは島根県雲南市で自治体ぐるみの取り組みを厳密に評価する研究を09~14年に実施。中高年の住民にさまざまな手法で運動を呼びかけて4千人超を追跡した。
島根県雲南市で、交流しながら歩く住民ら=2019年(身体教育医学研究所うんなん提供)
島根県雲南市で、交流しながら歩く住民ら=2019年(身体教育医学研究所うんなん提供)

 

 チラシやポスター、のぼりや有線放送を通じてウオーキングや筋トレ、柔軟体操を推奨。「5分だけでも」のキーワードで敷居を下げ、理容師や元郵便局員など地域のキーパーソンによる「口コミ戦略」を展開した。
 3年間は変化がなかったが、5年目には運動習慣を高める効果が確認できた。世界でも初めての成果だ。
 神奈川県藤沢市の研究でも効果が出るまで5年かかった。住民全体に漫然と運動を呼びかけるよりも、特定の層ごとにアプローチすることが重要なことも分かった。
 両市の取り組みは現在も継続中で、雲南市では健康への影響も今後調べる。鎌田さんら研究者は全国の自治体の普及事業を支援する態勢づくりを進めている。
 ▽ファン心理
 新型コロナウイルスの流行は多くの人の運動機会を奪った。大人に加えて子どもたちの運動能力の低下が懸念される。
 一方、自宅で筋トレするなど意識して体を動かそうとする人もいる。「うまく動機付けすれば運動習慣のない人が動くきっかけもつくれそうだ」と鎌田さんはみる。
 一例がプロ野球ファンの心理をくすぐる「パ・リーグウオーク」の携帯アプリ。1日の歩数に応じて自分の好みのチームを応援したり、選手の特典画像をもらえたりする。もともと「自分で運動をするつもりはない」と考えていた人を含め、アプリを使うことで歩数が増える効果がみられた。
 「歩数に応じてアイドルグループの推しメンバーを応援できるアプリも考えられる」と鎌田さん。「さまざまな人の心に響く手法を考えたい」と語る。(共同=吉村敬介)