子どもの再出発を支援 長期欠席から学校・社会に完全復帰へ 「翼学園」(松山市、第9回奨励賞)
「二度と心が壊れることがないと思う。なぜなら、この世でもっとも信じることができる先生たちがいるから」―。学校に通えなくなった子どもたちを受け入れる松山市の学校外通所施設「翼学園」(旧・えひめ心のつばさ)の卒業式にあたる「巣立ちを祝う会」が3月末に行われ、つらい過去を乗り越えた卒業生3人が未来に向かって踏み出す決意を新たにした。
▽学園生全員が学校・社会に完全復帰
大野まつみ理事長が、当時小学生だった長女へのいじめ問題をきっかけに自宅を家庭文庫として開放、地域の子育ての相談に乗った活動を前身とする翼学園。スタッフは心理カウンセラーの資格や教員免許を持つ専門家集団で、長期欠席を克服した学園OBの母親たちでもある。子どもが学校や社会に完全復帰できるまで、親や祖父母ら家庭を丸ごとケアし続けるのが最大の特徴で、教室を開いた1986年以降、670人以上が希望の進路を実現した。今期の卒業生3人も県立高校定時制課程に進学・編入。OBたちは公立学校の教員やアーティストなど多方面で活躍中だ。

「子どもを救うには理解が大切。学校に行きたくても行けないから、罪悪感で悩み、自死までも考える」(大野理事長)。学園では「不登校」と呼ばず「長期欠席」と表現する。「責められている」と感じて傷つく子どもたちがいるからだ。大野理事長は長期欠席に陥る過程と必要な支援をそれぞれ5段階で表し、独自の指導を考案。講演会や相談会を通じて、正しい理解を呼び掛け、培ったノウハウも地域に発信している。
▽翼学園独自の段階別ケア
支援の初期段階では、学習会などを通じて保護者に自宅でできるケアを習得してもらい、登校刺激を一時的に止めさせる。さらに一人一人の状態に合わせて、学園側がカウンセリングを行い、子どもの心身をしっかり回復させてから学園の教室での勉強や集団行事への挑戦をスタート。教科学習は、授業が分からなくなった学年から個別指導で進め、グラウンドを借りて毎週開催する「スポーツの日」では仲間との共同作業の楽しさを再体験。愛媛大学教授や元NHKアナウンサーら多彩な講師陣が担当する特別授業も毎月行われ、子どもたちの学力やコミュニケーションスキルが自然と向上していく。
学園は家庭と学校との連絡調整役も担っている。学校と連携して再び通学できるよう環境を丁寧に整える一方、働いて自立を目指す場合も適性を詳しく検査して、希望の職に就けるまでスキルを培い、社会復帰を実現する。

指導者と子どもが信頼関係で固く結ばれ、子ども自身が学校に行きたい、就職したいと決意してから始まる最終段階のケアが、弱点の徹底克服だ。「心の奥にひそむトラウマを全部引き出し、負荷をできる限り取り除く」というカウンセリングで、厳しく対峙する。希望の進路を叶えた今期の卒業生たちも「巣立ちを祝う会」のスピーチで「先生の教えはきれい事や理想論ではなく、また、ただ褒めそやすのではなく、ときに厳しく弱点を伝え、直す方法も教えてもらった」と自信を深めた過程を振り返った。

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