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地域再生ただいま活躍中!

全国の地方新聞社と共同通信社が設けた「地域再生大賞」の表彰団体は、第8回までに計400団体になった。自然保護や新たな産業の育成、子育て支援、伝統文化の維持など活動の舞台はさまざまだ。それぞれの場所で、それぞれの分野で取り組みを続ける表彰団体の今を紹介する。

記憶から消えた廃線を宝に、もったいないとの思いが力  「愛岐トンネル群保存再生委員会」(愛知県春日井市、第5回優秀賞)

2018.6.12 17:45
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 愛知と岐阜の県境で明治期に建造され、廃線後40年埋もれていた鉄道トンネルを再発見し、レトロな赤レンガが新緑や紅葉に映える散策路としてよみがえらせた。年15日前後の限定で実施している春と秋の一般公開を2008年から始め、延べ20万人もの来場者が国内外から集まる人気のスポットになった。

国の登録有形文化財に指定された3号トンネル。一般公開時には実物大の蒸気機関車のイラストが染め抜かれた大幕がつり下げられる。この大幕も会員の家族の手づくりだ。
国の登録有形文化財に指定された3号トンネル。一般公開時には実物大の蒸気機関車のイラストを染め抜いた大幕がつり下げられ、汽笛の効果音も流れる。大幕も音響設備も会員らの手づくりだ(愛岐トンネル群保存再生委員会提供)


▽8キロの区間に13基を確認

 JR中央線で名古屋駅から約30分の愛知県春日井市。国内三大ニュータウンに数えられる高蔵寺地区を抜けると街並みが一変、渓谷や廃墟となった旅館が連なり、秘境のようなムードが漂う。1900年に開通した旧中央線高蔵寺━多治見(岐阜県)間は、庄内川の渓谷沿い約8キロに総レンガのトンネルが14基も掘られた全国でも珍しい区間だった。しかし、新ルートの完成にともなって66年に閉鎖され、地元でも忘れられていた。一級建築士や歴史好き、写真愛好家らでつくる「愛岐トンネル群保存再生委員会」は調査に取り組み、13基の現存を確認。「愛岐トンネル群」と命名した。
 「中部のものづくりを支えた大動脈。歴史を刻んだ貴重な遺産なのに、もったいないの一心だった」と村上真善理事長。行政や業者の手は借りずにやぶ刈りから始め、柵や橋は古レールなどの廃材や竹を使って手づくり。延べ1500人のボランティアが参加し、1年がかりで春日井市側の4基(1・7キロ)を遊歩道に整備した。2014年には1万人以上から集めた寄付金で周辺の山林5ヘクタールも買い取った。 

紅葉を楽しめる穴場スポットとして多くの人でにぎわう秋の一般公開(愛岐トンネル群保存再生委員会提供)
紅葉を楽しめる穴場スポットとしてにぎわう秋の一般公開。トンネル群の魅力を知った来場者による寄付も多かった(愛岐トンネル群保存再生委員会提供)


 堅牢な「イギリス積み」のトンネルは崩落もなく、すすの染みついた内壁や軌道跡に残る砕石などに蒸気機関車が走っていた当時の面影を残す。内部の暗闇を抜けると、出口のアーチが額縁代わりとなって、鮮やかな新緑や紅葉が目に飛び込んでくる。周囲には300本ものモミジが群生し、絶滅危惧種の草花や昆虫の宝庫となっている自然もみどころだ。

トンネルをふさぐように育った椿の木もそのまま生かした。トンネルのアーチを額縁代わりに新緑がまぶしく映る(愛岐トンネル群保存再生委員会提供)
トンネルをふさぐように育ったツバキの木もそのまま生かした。光と闇のコントラストが印象的だ(愛岐トンネル群保存再生委員会提供)

 

▽名実ともに地域の宝に

 取り組みのきっかけは06年。春日井市内のJR勝川駅のプラットホームから撤去された赤レンガで町おこしに挑戦した村上さんに「レンガでできたトンネルも市内にあった」と話す古老がいた。記憶がおぼろげで正確な場所は分からず半信半疑だったが、仲間とともに2か月かかってマンモス団地の裏山で、ついに探し当てた。村上さんは「住民に聞いても誰も覚えていなかった。どんなに立派な遺構でも見えなければ記憶から消える」と話す。

出入り口のデザインは1基ずつ異なる。アーチの迫石が七重に巻かれた珍しい構造を持つトンネルも。
出入り口のデザインは1基ずつ異なる。アーチの迫石を七層に積んだ珍しい構造を持つトンネルも(愛岐トンネル群保存再生委員会提供)

 

 一級建築士など会員それぞれの特技をいかして調査と記録を徹底。多治見市にも支部を置き、県境を越えて価値を発信してきた。トンネル群が1870万個ものレンガで建造されたことや、刻印から製造ルートも突き止めた。強度を高めるため地中で逆アーチ状にレンガを積んだ構造物「インバート」を見てもらおうと、掘り出して保存・展示する試みも。発掘や展示には名古屋大など研究機関が携わり、地元の小学生を案内する活動も始めた。「地域の宝を磨き、次世代に引き継げるようにするのが役目」と村上さんは力を込める。取り組みが実り、09年には近代化産業遺産、16年には2基と排水路が国の登録有形文化財に認定された。

直径1.7m、重さ3トン近いC57の本物の動輪。自転車をこぐと動輪を回して遊べる日本初の動態展示という(愛岐トンネル群保存再生委員会提供)
直径1.7m、重さ3トン近いC57の本物の動輪。自転車をこぎ動輪を回して遊べる日本初の動態展示だ。各種展示コーナーの設営をはじめ、ベンチや東屋、ターザンブランコといった遊具類もすべて会員が製作した(愛岐トンネル群保存再生委員会提供)
 
河原に廃棄されていたレンガを活用して会員が手づくりした広場。一般公開中は連日コンサートが開催される(愛岐トンネル群保存再生委員会)
河原に廃棄されていたレンガを敷き詰めて造った広場。一般公開中は連日コンサートが開催される(愛岐トンネル群保存再生委員会提供)

 

▽新たなステージ模索

 手弁当で整備に参加する会員70人の平均年齢は72歳。年300万円かかる維持運営費は民間の助成金でやりくりする。多治見市側のトンネルとあわせた3・5キロを遊歩道に活用し通年で公開する構想や、維持管理を委託する財団法人の設立も呼び掛ける。実現までに課題は残っているが「背水の陣で臨む」と村上さんはいう。今年は新たに商工会議所と連携して夏の週末限定でビアガーデンを企画。関係機関を巻き込むべく、さらなる戦略を練っている。(共同通信 錦織綾恵)

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