【5064】李白 特別純米(りはく)【島根県】


【S蕎麦屋にて 全4回の④完】
S蕎麦屋は、かけそばが絶品なうえ、蕎麦屋にしては置いている酒の種類が多い。蕎麦好き&酒好きのわたくしとしては、こたえられないシチュエーション。「新しいお酒が入りましたよ。いらっしゃい」と連絡が来たので、すみやかに暖簾をくぐった。
「七本鎗」「鍋島」「上喜元」と飲み進め、最後にいただいたのは「李白 特別純米」だった。李白酒造のお酒は当連載でこれまで、6種類を取り上げており、今回の酒は一度取り上げている。しかし、それから丸8年も経過しているので再び取り上げることにする。
上立ち香、含み香ともに、かなりほのか。香りを抑えている印象だ。含んだ第一印象は酸が出ている、だった。瞬間的に次に旨みが来る。そして瞬間的に中盤から余韻にかけて、やさしい辛みが出てくる。そして次第に苦みが出てエンディングへ。最後の最後になんと甘みが顔を出す。そしてキレが良い。文章にして書くと長くなったが、これが、1秒以内の味の軌跡だった。
さらりとした口当たり。味わいは、旨みと酸が特長的で、厚みは適度。クラシックタイプのミディアムボディー酒。あるいは醇酒。近年、甘み、旨み、酸が出ているとジューシーなモダンタイプの酒であるケースが多いのだが、今回のお酒は、甘み、旨み、酸が出ているがジューシーではなく、モダンタイプとはならないところが酒の面白さと複雑さだとおもう。
瓶の裏ラベルは、この酒を以下のように紹介している。
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由来:「李白」の酒名は中国唐の詩人李白に因み、元総理大臣若槻礼次郎氏により命名されました。
特長:酒造好適米を丁寧にみがき上げ、李白酒造伝統の技を駆使し、じっくりと低温で醗酵させた吟醸型です。しっかりとしたコクと後キレのよさが特長です。
おいしい飲み方:冷や、又は冷やして、燗の場合はぬる燗でお飲みください。
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この説明文を見て、この蔵は見識があるなあ、とおもった。おいしい飲み方の部分である。「冷や、又は冷やして」の前段の「冷や」は「燗酒ではない」という意味で、現実的には室温。あるいは20℃。一方、後段の「冷やして」は冷蔵庫で5~15℃に冷やすという意味だ。
家庭用冷蔵庫が普及し始める昭和30年代半ば以前は、室温の酒を飲むか、燗酒を飲むかの2種類しかなかった。燗酒で飲まないときは「冷や」と言った。この“燗・冷や2択時代”が何百年も続いてきたのだ。しかし、家庭用冷蔵庫が普及し、酒を冷やすことが一般的になったら、冷蔵庫で冷やしたものを「冷や」というようになった。この言い方は、歴史的言い方からすれば誤用である。正しくは「冷酒」である。
一方、室温で飲むかつての「冷や」は現在、「常温」という人が多い。しかし、「常温」は厳密には20℃のことを言うので、燗にせず、冷やしもしない酒は、「室温」というのが一番正確かもしれない。
酒瓶の裏ラベルに「冷や(5~10℃)でお召し上がりください」と書いている蔵が非常に多い。しかし、厳密に言うと、これは間違い。正しくは「冷酒(5~10℃)でお召し上がりください」だ。以上のことから、ラベルに「おいしい飲み方:冷や、又は冷やして」と書いた李白酒造は見識がある、とわたくしは大いに評価したのだった。とはいっても、この書き方を理解できるユーザーがどのくらいいるのか疑問だ。もっと分かりやすい言い換え用語が必要だ。これは、一蔵元さんが考えることではなく、業界全体で考え、分かりやすい統一用語を定めるべきだ、とおもう。
蔵のホームページはこの酒を「李白のオールラウンダー」と題し、以下のように紹介している。
「島根県産酒造好適米『五百万石』を58%に精米した特別純米酒です。コクとキレある酒質で様々な料理と相性良く、様々な温度で楽しめるオールラウンダーです。 まだ『純米酒』が一般的 でなかった級別廃止以前から『一級純米酒』として親しまれてきた李白の歴史ある特定名称酒です。(級別廃止以降「特別純米酒」としてリニューアル)」
裏ラベルのスペック表示は「原材料名 米(国産)米麹(国産米)、精米歩合58%、アルコール分15度、原料米 酒造好適米100%、製造年月22.10」にとどめているが、蔵のホームページは原料米を「五百万石」と開示している。ラベルにも開示してほしかった。
酒名および蔵名「李白」の由来について、蔵のホームページは以下のように説明している。
「大正から昭和にかけて二度も内閣総理大臣を経験した島根県松江市出身の、若槻礼次郎氏によって酒仙李白に因んで命名された由緒ある酒名です。故若槻礼次郎氏は、“詩を愛し酒を愛し”とりわけ松江のお酒、李白を愛されました。氏はロンドン軍縮会議に首席全権として臨み、李白の菰樽をたずさえて朝夕愛飲されました。ラベルの李白の字は氏の揮毫(きごう)を写したものです」