【5054】米鶴 別誂 磨き五割 辛口瓶囲い(よねつる)【山形県】

2023年02月04日
酒蛙酒蛙
山形県東置賜郡高畠町 米鶴酒造
山形県東置賜郡高畠町 米鶴酒造

 登山を通じてお付き合いをさせていただいているお二人と不定期親睦会を開いた。場所は、いつもの「食事処I」で。山の情報をいろいろ聞くことができたり、装備や写真撮影などでアドバイスを受けたり、となかなか有意義。時間を忘れるほどの楽しい会だ。

 その会に今回登場したのが「米鶴 別誂 磨き五割 辛口瓶囲い」だった。「米鶴」は当連載でこれまで、9種類を取り上げている。派手さはないが、穏やかながら適度にしっかりとした味わいのお酒が多く、わたくしお気に入りの銘柄の一つだ。今回のお酒はどうか。いただいてみる。

 上立ち香は、シトラス系の果実香がほのか。含み香も同様で、ややフルーティー。穀物香のニュアンスもほのかに。さらりとした口当たり。きれいな酒質。味わいでは酸が出ており、さっぱりとした味わい。キレが非常に良い。辛口酒を名乗っているが、それほど辛口には感じない。辛口であることに間違いはないが、ジューシーに感じ、甘みもほのか。タイプはクラシックとモダンの中間、ボディーはミディアムとライトの中間。あるいは爽酒と薫酒の中間くらい。飲み進めていくと、酸がいよいよ出てくる。温度がすこし上がると、さらに酸が出てきて、さらにいい感じのお酒になる。食中酒や晩酌酒に向いており、当然のことながら、あっという間に空になった。

 瓶の裏ラベルは、この酒を以下のように紹介している。「米鶴は高畠町酒米研究会を組織し米作りからの酒造りを基本としています。貴重な酒米を有効活用すべく仕込んだ、すっきりとして切れがあり綺麗な味わいのお酒です。食中酒としてお楽しみください」

 ん? とおもった。「貴重な酒米を有効活用すべく仕込んだ」の部分に、だ。普通はこのようなことは書かない。わざわざ書いたということは、この酒の使用米は等外米なのではないだろうか。そうだとしたら、純米吟醸、純米など特定名称酒を名乗れない。ラベルをじっくり見ると、特定名称酒の区分は書かれていない。

 で、なじみの酒屋さんに電話して聞いてみた。答えは「そうですよ。『雪女神』という酒造好適米の等外米を使って醸したお酒です」だった。

 コメの生産過程で5~10%の等外米(規格外米)が出る、といわれている。生産者の技術的な部分もあるが、等外米が発生するのは仕方のないことだ。しかし、等外米を使って酒を醸すと、特定名称酒(大吟醸や純米など)を名乗れず、普通酒扱いになる。販売価格がかなり安くなる。このため、等外米は酒造に使われないできた。しかし、それだと農家が可哀想で、持続可能な農業のためには等外米を酒造に使用すべきだ、という動きが酒造業界で出始めている。わたくしは、このムーブメントに大きな賛意をあらわすものである。今回のお酒もその一環で、極めて好ましいとおもう。

 この酒の裏ラベルは「貴重な酒米を有効活用すべく仕込んだ」という隔靴搔痒的表現をしているが、当連載【4969】の「旭興 夏のしぼりたて 無濾過生原酒」は裏ラベルでずばり、「原料米 栃木県産酒造好適米等外米」と明記している。非常に良いことだとわたくしはおもう。この動きが広がれば、酒造業界が持続可能な農業を下支えすることになる。

 さて、この酒の使用米「雪女神」は、山形市の国井酒店のホームページによると、山形県が、山形県初の大吟醸規格用酒造好適米の開発をめざし、「蔵の華」と「出羽の里」を交配、育成と選抜を繰り返し開発した酒造好適米。これで「山田錦」に頼らず、すべて山形県産の原材料で大吟醸を醸すことが可能になった、という。

 また、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構次世代作物開発研究センターによると、「雪女神」を開発したのは山形県農業総合研究センター水田農業試験場で、2001年に母「出羽の里」と父「蔵の華」を交配し育成を開始。選抜と育成を繰り返し品種を固定。2015年に命名、2017年に種苗法登録された、非常に新しい酒造好適米だ。

 一方、瓶の裏ラベルは、以下の情報も掲載している。
〈召し上がり方〉冷やして◎ 常温〇 ぬる燗◎ 熱燗〇
〈相性の良い料理〉イカの刺身、焼鳥(塩)、かまぼこ、ホタテのバター焼き、エビフライ、サラダチキンの中華和え、イカのオイスターソース炒め

 裏ラベルのスペック表示は「原材料名 米(国産)米麹(国産米)、使用米 山形県産100%、精米歩合50%、アルコール分15度、甘辛濃淡 辛口・淡麗、杜氏名 須貝智、製造年月22.10」

 酒名および蔵名「米鶴」の由来について、蔵のホームページは以下のように説明している。「『米鶴』の名前は、『感謝の気持ちを伝える、真心のこもった酒でありたい』という思いを込め、お辞儀をするような稲穂の姿、地元に伝わる民話『鶴の恩返し』に由来しています」