見える人も見えない人も一緒に鑑賞 映画製作の岡野晃子監督


全ての作品に触れて鑑賞できる、イタリア・マルケ州の「オメロ触覚美術館」の日々を捉えたドキュメンタリー映画「手でふれてみる世界」が、「シネマ・チュプキ・タバタ」(東京都北区)で2月28日まで上映中だ。岡野晃子監督は「目が見える人も見えない人も一緒に鑑賞できることが当たり前になればいいと思って撮った」と話す。

オメロ触覚美術館は全盲の、アルド・グラッシーニ館長とダニエラ・ボッテゴニさん夫妻がマルケ州の支援を受けて1993年に開館。後に国立美術館となった。ミケランジェロの複製や現代作家の作品など、彫刻を中心に展示している。

撮影開始から間もなく新型コロナウイルスが感染拡大し、イタリアでは移動制限を実施。作品に触ることに意義がある美術館には、切実だった。
コロナ禍に再訪した岡野監督は全盲の高校生ララ・カロフィリオさんに遭遇。マスク姿で作品を「触察」する様子を収めた。スタッフの解説に耳を傾けながら、ゴム手袋をはめた両手でドナテッロ作「ダビデ像」(複製)の帽子、顔、髪、胸、腹に順に触れていく。
「目が見えない人が、じっくり作品と向き合って感じたことを言葉にしている姿に、私たちが何も見ていなかったと反省させられました」

ララさんから、同様の美術館の必要性を英語圏にも伝えてほしいと懇願され「映画を完成させなくてはいけないとスイッチが入った」。22年まで撮影を重ねて仕上げた。
岡野監督は「コロナ禍の(行動制限の)反動で、ものと出合うこと、触れることが大切だと、人々の認識が変わった」と感じ、多くの観客の来館を期待する。
本作は音声ガイドを制作。イヤホンで説明を聞きながら鑑賞できる。チュプキ近くのギャラリー「OGU MAG」(東京都荒川区)では19日まで作品に触れて鑑賞できる彫刻展を開催中。