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【4518】幻 純米吟醸(まぼろし)【広島県】

2021.3.22 15:59
広島県竹原市 中尾醸造
広島県竹原市 中尾醸造

【高校同級生からのいただきもの 全7回の⑥】

 高校時代の同級生と雑談したとき「日本酒をもらってくれないか」と切り出された。彼は趣味の世界ではちょっとした有名人で、その関係で時々、各地の酒が届けられる。が、彼はある特定銘柄の日本酒しか飲まないとのことで、時々届けられるお酒は物置に鎮座し続けているとのこと。「おおっ、いただくとも、いただくとも」。いじましくも二つ返事をしたわたくしは早速彼の家に車で乗り付け、全国の7本をいただいた。

 わたくし1人でいただくのはもったいないので、酒友と2回に分け、なじみのH居酒屋でいただいた。まず、酒友ちーたんと飲んでみた。「寿」(大和蔵酒造)、「東光」「月の輪」「金鳳 松江城」「玉乃光」と飲み進め、6番目にいただいたのは「幻 純米吟醸」だった。中尾醸造のお酒は当連載でこれまで、「幻 純米」「幻 純米大吟醸」という「幻」2種類と「誠鏡」1種類を取り上げている。さて、今回のお酒はどうか。

 酒蛙「辛い。この辛みは、旨みも多少伴う」
 ちーたん「北国の香りがする」(なんという例えなのだ)
 店主「辛みが先に来る」
 酒蛙「独特な含み香。木造校舎の香りっぽい」
 店主「ん~~、酸が分からない」
 ちーたん「苦みを感じたあとに酸がくる。きれいな酒だ」
 酒蛙「おっ、酸が出てきた、出てきた。酸とともに苦み・渋みも出てきた」
 店主「ずいぶん辛いな」
 酒蛙「木香のような香りが出てきた」

 その10日後、今度は酒友のY、TUとH居酒屋で飲んでみた。

 酒蛙「辛っ!」
 TU「メロンみたいな甘みを感じる」
 酒蛙「甘は一瞬で、あとは辛み」
 Y 「メロンは感じる」
 酒蛙「メロンは感じない」
 TU「辛いかな。甘みを辛みのオブラートでくるむ印象」
 Y 「酸を感じない」
 酒蛙「酸は最初ほのかで、じわじわ出てくる。辛みと甘みが印象的だ」
 TU「手であたため日向燗あたりにすると、甘みに酸がまとい、辛い」
 酒蛙「この酒は『辛み』以外の味の表現が非常に難しい酒。テイスティング泣かせだ。しかし、レベルが高い酒でことには違いない」
 Y 「分かんないよ、この酒」
 酒蛙「この酒、難しいよ。結局、辛・旨・酸酒か。飲み飽きしない酒であることには違いない」
 Y 「こりゃ、幻だ」
 TU「辛いなあ」

 今回のお酒は、10日のインターバルがあっても、テイスティング結果はほぼ同じだった。すなわち、辛みが立っているお酒であること、そして2回とも酸の出方が遅れ気味であること、これらが共通していた。

 瓶の裏ラベルはこの酒を以下のように紹介している。「古くから栽培されてきた広島の酒米『八反錦』で醸した純米吟醸酒です。八反錦で醸すお酒は、しぼりたてのときは芯が通った張りのある淡麗な酒質ですが、半年が経つ秋には、味の深みが増して、やわらかで厚みのある酒質に熟成します」

 また、蔵のホームページはこの酒を以下のように紹介している。

「当蔵は独自の酵母と極秘伝承の技術を駆使して昭和23年から25年までの3年間、皇室新年御用酒の栄を賜ることが出来ました。そして、その時以来伝承されてきた独自の製法で造った特別なお酒に「まぼろし」という名を冠せております。
 純米吟醸まぼろしは食中酒をコンセプトに、9号系酵母を使用し広島県産の酒造好適米『八反錦』で醸しています。爽快な吟醸香を上品に表現し、すっきりとした口当たりながら熟成により味に幅を持たせ八反錦の特徴を十分に引き出しています。甘味・旨味・酸味、また、ほのかな苦みのバランスが後切れの良い爽やかな飲み心地を生み出しています」

 瓶の裏ラベルのスペック表示は「原材料名 米(国産)米こうじ(国産米)、アルコール分15度、原料米 八反錦100%(広島県産)、精米歩合55%、日本酒度+3、お召し上がり方 冷して~燗(45~55度)、杜氏名 荒谷昭夫(広島杜氏)、製造年月20 08」。このほか蔵のホームページはこの酒のスペックを以下のように公開している。「日本酒度+3、酸度1.4、酵母9号系、甘辛 やや辛口」
 
 使用米の「八反錦」は広島県立農業試験場が1973年、母「八反35号」と父「アキツホ」を交配。育成と選抜を繰り返し品種を固定。1983年に命名、1984年に種苗法登録された酒造好適米。今や、「八反錦」といえば広島、広島といえば「八反錦」というほど、全国的に著名な酒米となっている。

 この蔵の主銘柄は「誠鏡」(せいきょう)。その由来について、蔵のホームページは「『杯に注いだ酒の表情を鏡にたとえ、酒造りに精進する蔵人の誠の心を酒の出来栄えに映し出してほしい』という初代当主の願いを込めた銘酒『誠鏡』が誕生」と説明している。

 一方、「幻」誕生のいきさつについて、蔵の長文説明を以下に要約した。

 この蔵4代目中尾清磨は1940(昭和15)年、醸造特性に優れたリンゴ酵母を発見。酒質を飛躍的に高め、1948(昭和23)年にリンゴ酵母を使い高温糖化酒母法で仕込んだ大吟醸酒は、その年に開催された全国鑑評会で1位を受賞した。そして、1974(昭和49)年、いくつもあった難題を乗り越え、採算も度外視して、リンゴ酵母で醸した純米大吟醸酒を「幻」という名前で発売した。全国1位受賞から26年目のことだった。

 1974年、「幻」が発売されたとき、当時の雑誌記事は、コラムで以下のように紹介している。「幻の酒、があるそうな。酒造蔵の奥深くにあって、門外不出。うわさに聞くが、ゼニカネ出しても味わえぬ。酒造技術の精華ともいう。だが、ありがたい時代になったもの。幻がついに姿を現し、デパートに並んだ。もう、だれでも、いつでも飲める」。なかなかの名文でびっくりだ。

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