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文化

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【4511】すっぴんるみ子の酒 9号酵母 特別純米無濾過生原酒【三重県】

2021.3.15 22:26
三重県伊賀市 森喜酒造場
三重県伊賀市 森喜酒造場

【H居酒屋で 全3回の➁】

 なじみのH居酒屋の店主からショートメールが入った。「新しいお酒が入りましたよ」。おおっ、ならば行かなければならない。酒友のYとTUを誘い、暖簾をくぐった。新しい酒は3種類。その中からまず、「すっぴんるみ子の酒 6号酵母 特別純米無濾過生原酒」をいただき、次に「すっぴん るみ子の酒 特別純米 無濾過生原酒 9号酵母」をいただいた。

 今回のお酒は、当連載【2818】(2017年3月26日掲載)ですでに取り上げており、前回飲んだ「すっぴんるみ子の酒 6号酵母 特別純米無濾過生原酒」と酵母違い酒。掛米も八反錦から伊勢錦へと代わっている。あとはほとんど同じ。

 今回のお酒を醸した協会9号酵母について灘酒研究会のサイトは、以下のように解説している(酒蛙が編集)。

「1953年ごろに、野白によって熊本県酒造研究所(主銘柄は香露)の醪より分離されたのが熊本酵母で、1968年からきょうかい9号酵母として日本醸造協会より頒布されて現在に至る。吟醸酒造りに適する。醸造上の特徴は低温でよく発酵する酵母であり、前急短期型醪になりやすく、製成酒は酸度も少なくて香気も高い。カプロン酸エチル高生産株の登場までは、全国新酒鑑評会の出品酒に最も多く使われていた。現在においても吟醸酒の多くに使用されている」

 さて「すっぴん るみ子の酒 特別純米 無濾過生原酒 9号酵母」をいただいてみる。

 酒蛙「大人しい口当たりだ」
 Y 「イマドキの酒っぽいね」
 酒蛙「苦みが強く出ている」
 TU「うん、苦い」
 Y 「ちょっとヨーグルト的な酸味があり、嫌いじゃない」
 酒蛙「うん、酸が出てきたぞ、出てきたぞ」
 Y 「最初、苦みが強くて引いてしまったが、慣れたら苦みはOK。酸もあるし、いいね」
 TU「旨みも出ているが、酸と辛みの方が勝る」
 酒蛙「辛みというよりは、苦辛みだな」
 TU「ヨーグルト的乳酸を感じる」
 酒蛙「飲み進めていったら、いよいよ酸が出てきた。甘・旨・酸が出てきた。バランスが良くなってきた」

 瓶の裏ラベルのスペック表示は「醸造年度 R2BY(令和2酒造年度)仕込1号、原材料 米(国産)米麹(国産米)、精米歩合60%、使用米 三重県産山田錦(使用割合25%)三重県産伊勢錦(使用割合75%)、杜氏 豊本理恵、使用酵母 協会9号、アルコール分18%、日本酒度+7、酸度1.9、アミノ酸1.3、製造年月20.12」。

 使用米の「伊勢錦」について、元坂酒造(三重県多気郡大台町)のホームページを開いてみたら、「幻の酒米・伊勢錦」と題し、以下の説明文が掲載されていたので、転載する。

「酒米伊勢錦は、万延元年(1860年)多気郡勢和村朝柄の岡山友清が『大和』から品種改良の末に生まれました。芳醇な味を醸す酒米として近畿圏で多く栽培されていましたが、戦中の米不足や背丈が高く倒伏しやすいなどの理由から近代農法にあった飯米の新品種に変わって行き、昭和25年に姿を消しました。当社では地元産酒米の復活をかけ、種子保存されていた種籾を一握り譲り受け、三年がかりで増やし平成元年に酒を造り蘇らせました」

「るみ子の酒」は、漫画「夏子の酒」(当連載【43】「清泉 純米大吟醸 亀の翁」参照)の作者・尾瀬あきらさんが1992(平成4)年、命名し、ラベルの絵を描いた。

 森喜るみ子さんは、なぜ、酒造りにかかわるようになったのか。そこには「物語」があった。そのいきさつについて、尾瀬さんが、講談社漫画文庫「夏子の酒」第5巻のあとがきに書いている。その全文を、森喜酒造場のホームページから、以下に転載する。

        ◇

「前略
 只今、平成三年六月二十二日午前一時です。先だって買ってきた『夏子の酒』を読み終えたところです。
 なんと書かせていただければよいか…
 私も実は、造り酒屋の跡とり娘として生をうけました。
 大学を卒業し、製薬会社へ勤務しておりましたが、父が脳梗塞で倒れ、急遽主人と結婚し、家業を継ぎました」

 こんな書き出しで始まるお手紙を私の元に送ってくれたのは三重県伊賀地方にある、たった二百石足らずの小さな小さな酒蔵、森喜酒造の蔵元、森喜るみ子さん。
 銘柄は妙乃華(たえのはな)。
 『夏子の酒』の執筆中に、私はたくさんのお便りを読者から頂きましたが、その中でも夏子をほうふつとさせる、るみ子さんの一通はひときわ印象的でした。

「私も夏子の如く、麹と酒の香りとタンクのもとで育ち、物ごころつかぬうちからお酒の味を覚えました。
 小学生の時には、すでに槽口からしたたる荒走り(酒槽に積まれた酒袋から圧力をかけずに、自然流出してくる最初の酒)のおいしさを心得ていて、学校から帰ると槽場でこっそり盗み利きをしていました。
 夏子のように銘柄を当てられる利き酒の達人ではありませんが“おいしいお酒”は解ると思います」

 彼女が子供の頃には能登から五人の蔵人が半年間住み込みで来てくれて、活気のあった蔵も今では杜氏と代司(麹づくりの責任者)だけ。
 るみ子さんはお腹に子どもを抱えながらも、朝4時に起きて30キロの米袋を運び、蒸米をタンクに入れ、上槽を手伝うという。

「私は来季も、夏子の様に蔵に閉じこもると主人に宣言しました。やがて生まれてくる3人目の子のためにも、母としてがんばるつもりでおります」

 この手紙をきっかけに、私と親しい蔵元や酒屋さんが、「放っておけない」とばかりに伊賀にとび、蔵仕事を手伝ったり、アドバイスしたりという素敵なつながりが生まれました。
 『るみ子の洒』はそんな状況の中から生まれた純米酒です。
 私もラベルの絵を描くお手伝いをしました。『夏子の酒』をもじったものではないか...という意見もありましたが、これほど的確なネーミングは他に見当りませんでした。
 現在、るみ子さんは日本酒に携わる女性の全国的なネットワークを作ろうとはり切っています。
 三重県上野市の森喜酒造は、生き残ってもらいたい蔵のひとつです。

        ◇

「るみ子の酒」を醸している森喜酒造場は、本当に小さな蔵のようだ。蔵のホームページによると、1997年醸造年度から、杜氏を蔵元が兼任で造っているといい、「杜氏代わりとして製造計画、製造全般責任者として森喜英樹(代表社員)、麹造り責任者として森喜るみ子(専務)、造りの段取り等の要として豊本理恵を中心に造っております」という。るみ子さんは、最も大切な工程のひとつ「麹造り」を担当しているのだ。

 酒名「すっぴんるみ子の酒」の「すっぴん」について裏ラベルは「槽口(ふなくち)から出てきたお酒をそのまま瓶詰めしました。無濾過、無炭素、無添加、無加水の、生まれたままの純米酒ですので、すっぴんと名付けました」と説明している。

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