【4693】赤武 AKABU F NEWBORN 生酒(あかぶ)【岩手県】

【B居酒屋にて 全8回の⑦】
1カ月に1回のペースで足を運んでいるB居酒屋。常時約200種類の酒を置いており、1カ月たてば、冷蔵庫のラインナップがけっこう更新されているので、「日本酒津々浦々」の取材に好都合なのだ。コロナで大苦戦を強いられていたが、第5波が下火になってから、ようやくお客さんが戻って来た。しかし、ソーシャル・ディスタンスを確保するため、満席でもコロナ前の7割しか客を入れられないという。うまくいかないものだ。
「鹿鳴」「秋綿」「みむろ杉」「大倉」「忠愛」「川鶴」と飲み進め、7番目にいただいたのは「赤武 AKABU F NEWBORN 生酒」だった。赤武酒造のお酒は当連載でこれまで、主銘柄の「浜娘」1種類、「赤武」5種類を取り上げている。「赤武」は、甘旨酸っぱい味わいの、モダンタイプのお酒というイメージが濃厚にあり、わたくしの口に非常に良く合う。今回のお酒はどうか。いただいてみる。
やわらかくて、さらりとした、やさしい口当たり。これが第一印象。適度な果実香。甘酸っぱい、フレッシュ感のある味わい。甘みも酸もきれいで、品がある。余韻は軽い苦みと辛み。モダンタイプが色濃く反映されたお酒。キレ良く軽快感もあるが、ミディアムボディ。醸造アルコールを実に上手く使ったお酒。実に実に美味しい。「赤武」恐るべし!
瓶の裏ラベルは、「赤武」のコンセプト。すべての「赤武」に以下のように書かれている。「若き杜氏『古舘龍之介』を中心に志ある社員が魂を込めて醸した日本酒です。目指すものは、妥協せず仕込みひとつひとつを大切に日々進化する酒造りです」
裏ラベルのスペック表示は「原材料名 米(国産)米麹(国産米)醸造アルコール、精米歩合60%、アルコール分15度、製造年月2021.10」。この酒には特定名称の区分表示が無いが、醸造アルコールを使っていることと、精米歩合が60%であることを考えれば、「吟醸」クラスとおもわれる。
また、酒名の「F」の意味について、はせがわ酒店(東京)のウェブサイトは「『あなたのために・・・=For you』を略して『F』」と説明している。
赤武酒造は岩手県上閉伊郡大槌町で酒造業を営んでいたが東日本大震災で被災、それを乗り越え盛岡市で復活を遂げた蔵である。赤武酒造の再起については、2012年1月3日付東京新聞に詳しく書かれている。その要旨は以下の通り。
「震災を受けてすべて流された赤武酒造の古舘社長は廃業を決意し、ハローワークにも通ったが、取引先やなじみ客から励ましを受け、再び立ち上がる意欲がわいたのが震災から2カ月以上たってからだった。
家族で避難していた盛岡市に酒蔵を貸してくれる酒造会社を探し、同市の桜顔酒造が申し出を受け入れてくれた。酵母は岩手県工業技術センターに残っていた『浜娘』のものを使用した。
出荷目標は被災前の大槌町の人口と同じ15,994本。古舘社長は『水が違うので、まったく同じ酒は造れない。でも、浜娘としてイメージしていた味に近づけることはできた。最高に、という意味の“ガッツラうまい酒”になったと思う』と話している」
この出荷目標15,994本は2012年7月23日に達成した。同日付の蔵のブログに、古舘社長は以下の書き込みをしている。
「大槌町は震災前、15,994名、町に住んでいました。震災で約1,600名が犠牲になりました。空たかく旅立った親戚、友人、仲間にも、現在、頑張っている方にも飲んで頂きたい。この思いより『浜娘 純米酒 1800ml』を15,994本お届けしようと決め活動してきました。
私の力不足で7月になりましたが、本日23日に15,994本目を出荷する事が叶いました。願いは叶う。そう信じて夢中で進んできました。お買い上げ頂いた皆様へ感謝を込めてご報告いたします。ありがとうございました」
そして2013年、盛岡市に「盛岡復活蔵」を建設。翌2014年には新銘柄「赤武」を立ち上げ2018年3月1日、本社を大槌町から盛岡市に移転した。「赤武」は大きく成長、今では全国に広く知られる銘柄となっている。