【4654】而今 純米吟醸 雄町 無濾過 生(じこん)【三重県】

休日の夕方、ふらりと近所のうなぎ屋へ。うなぎはもちろん美味しいのだが、酒がいい。定番酒はありきたりの地酒3種類ほどだが、店主の“隠し酒”が面白い。この場合の面白い、は特段意味のある言葉ではない。わたくしの興味をそそる酒が多い、ということだ。どんなルートで入れているのか興味のあるところだが、あえて聞かないことにしている。
席につくと、店主が酒を抱えてきた。「而今 純米吟醸 雄町 無濾過 生」。これが店主の“隠し酒”、すなわち、本日の店主スペシャルだ。「而今」は飲む機会が多い酒で、当連載でこれまで、21種類を取り上げている。甘旨酸っぱくしっかりとした味わい、孤高の味わい、というイメージの銘柄だ。今回のお酒は、当連載【1171】で取り上げたものと同じお酒だが、掲載してから8年半たっているので、再び取り上げることにする。さて、いただいてみる。
メロン似の上立ち香がほのか。微発泡を感じ、フレッシュ感が広がる。やはり甘旨酸っぱい味わい。甘・旨・酸・苦の要素がいずれも良く出ているが、中でも甘みの存在感が一番大きい。とろみもある。以前に飲んだときは濃醇でパワフルに感じたが、いま飲むと、軽快・さわやか感があり、キレの良さが印象的。厚みはそれほどではなく適度。フルーティー&ジューシーだが、ともに出過ぎておらず、どことなく抑制感があり、上品さが漂う。余韻は軽い苦みと辛み。
瓶の裏ラベルのスペック表示は「原材料 米(国産)米麹(国産米)、原料米 雄町(100%)、精米歩合50%、製造年月2021.03」。
裏ラベルには、どの「而今」の裏ラベルにも書かれているように、これも、「過去に囚われず 未来に囚われず 今をただ精一杯に生きる 杜氏 大西唯克」と、蔵の口上が書かれている。「今この一瞬」。文語では、「而して今」。これが、酒名の由来だ。由来についてコトバンクは、「酒名は、仏教用語で『今の一瞬』の意。過去や未来に囚われず今をただ精一杯に生きるという意味を込めて命名」と説明している。「而今」とは、道元禅師が中国での修行時代に悟った世界観。