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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【4576】磐城壽 機関始動 生酒 ランドマーク(いわきことぶき)【福島県】

2021.5.27 16:48
福島県双葉郡浪江町 鈴木酒造店
福島県双葉郡浪江町 鈴木酒造店

【B居酒屋にて 全8回の⑦】

 1カ月に1回のペースで足を運んでいるB居酒屋。常時約200種類の酒を置いており、1カ月たてば、冷蔵庫のラインナップがけっこう更新されているので、「日本酒津々浦々」の取材に好都合なのだ。今回は、人並み以上の嗅覚を発揮する酒友ちーたんに同席してもらった。

「川鶴」「七田」「ヤマサン正宗」「金鼓」「賀茂金秀」「かねたまる」と飲み進め、7番目にいただいたのは「磐城壽 機関始動 生酒 ランドマーク」だった。鈴木酒造店のお酒は当連載でこれまで、10種類を取り上げている。福島県浪江町にあった同蔵は、東日本大震災で被災、山形県長井市の蔵で日本酒を醸し続けてきた。このたび、浪江町に道の駅が開業したことに合わせ、全国でも珍しい、道の駅に併設された蔵で、日本酒づくりを再開した。今後は、長井蔵と浪江蔵の2蔵体制で酒を造っていく。ドラマいっぱいの鈴木酒造店のこれまでの経緯を以下に転載する。わたくしは、大震災の2カ月前に浪江町の蔵を訪問した。だから、思い入れが非常に強い。

 2011年12月31日付の河北新報ウェブサイトの記事を以下に貼り付ける。

 「東日本大震災で全壊した福島県浪江町の酒蔵『鈴木酒造店』が、山形県長井市で廃業した酒造施設を引き継いで酒造りを再開、今月下旬から新酒『磐城壽(いわきことぶき)』を出荷している。杜氏(とうじ)で専務の鈴木大介さん(38)は『福島から避難中の人に酒を酌み交わしてもらい、少しでもふるさとを感じてほしい』と願っている。
 鈴木酒造店は浪江町請戸地区で江戸時代末期から150年以上続く老舗。磐城壽も創業期からの銘酒だ。港のすぐ近くに立地し、漁師が大漁を祝い、冷えた体を温める酒として親しまれてきた。
 3月11日。津波を受け、店舗や酒蔵など約3,300平方メートルが全壊した。歴代の醸造技術をまとめた資料、伝来の酵母も流失した。しかも福島第1原発から約7キロの警戒区域内。口にこそ出さないが、家族全員が再起を半ば諦めていた。
 震災から3週間後、再起の兆しが見えた。『検査で預かっていた酵母がある』。福島県会津若松市の研究機関からの吉報だった。『歴史が生き残っていた。いける』。山形県米沢市で父母ら家族と避難生活を送っていた鈴木さんは確信した。
 5月、酒造りができる空き物件を探し始めた鈴木さんに、今度は山形県工業技術センターから知らせが届く。後継者がいなくなった長井市の東洋酒造が3月に廃業し、設備が空いているという。交渉の末、10月下旬に譲り受け、11月初めに仕込み開始にこぎ着けた。
 再開に当たり、酵母とともに重要な水と酒米は変えた。『地元の味を地元の人に飲んでもらうのが、酒造りの喜び。無理に今までの味を再現しようとせず、地元の素材を生かそうと思った。(今は家族で住む)長井が地元なのだから』と鈴木さん。原料に使ったのは比較的硬度が低い長井の水と、山形産の酒米『出羽燦々(さんさん)』だった。
 酒造りは、7月に福島県南会津町の酒造会社を借りて行って以来。約1カ月後、出来上がりを味わった。『とろりとしてコメのうま味がしっかりある。本来の磐城壽らしい』。予想外に以前の味が再現されていた。
 震災から9カ月半。『ここまで来られたのは奇跡。支えてくれた方々のおかげだ』と鈴木さん。いつか帰れる日のため、請戸の土地や酒造業の免許は残している。『「その日が来るまで長井で新しい磐城壽の歴史を培う』。鈴木さんは一升瓶を抱えて前向きに語った。」

 そして願いがかない、10年ぶりに浪江町の酒造を再開した。これについて、2021年3月23日付の日本経済新聞のウェブサイトの記事を以下に貼り付ける。

「福島県浪江町の『道の駅なみえ』で、酒蔵や伝統的工芸品『大堀相馬焼」の販売・陶芸体験コーナーを備えた施設『なみえの技・なりわい館』が開業した。東日本大震災の津波で蔵を流された鈴木酒造店は10年ぶりに地元で酒造りを再開した。
 鈴木酒造店は東京電力福島第1原子力発電所事故により、避難先の山形県長井市で醸造を続けてきた。鈴木大介社長は『浪江の暮らしで磨かれた酒の味を、ほかの地元産品と一緒に発信したい』と再出発に力を込めた。
 焼き物の販売コーナーでは湯飲み、ぐい飲み、皿など、9つの窯元の約1000点が並ぶ。運営する大堀相馬焼協同組合は4月から、1度に最大16人が参加できる陶芸教室を始める。同協組の小野田利治理事長は『浪江に帰ってこられたことが一番。にぎわいも戻れば』と話した」

 しかし、浪江町での酒造再開は綱渡りだった。道の駅オープンの日にちが決まっているので、それに合わせて酒を造るのが大変だったようだ。これについて、この酒の裏ラベルで以下のように説明している。

「浪江町から町産の米と水を山形県長井市に運び仕込んだもろみを再び浪江の醸造施設に迎え入れ醸造した酒です。この酒と10年ぶりの私どもの町内事業再開に重ね、多くの方に感謝の言葉として『ただいま』を伝えたいこと、そして浪江のひとびとの暮らしに鍛えられてきた私たちの酒は、地域のひとびとの暮らしぶりを表現し伝え続けてゆくこと、この想いと覚悟を以て記念醸造酒『ただいま!』と『機関始動』としました。これからの私たちの酒造りと浪江町への応援をよろしくお願い致します!」

 熱い気持ちは伝わってくるが、経緯はよく分からないので、以下に補足する。

 2021年3月20日に「道の駅なみえ」はグランドオープンした。道の駅には酒造場が併設された。全国でも珍しいことで、酒造場は鈴木酒造店が運営する。この酒造場で造った酒をこの日に間に合わせるために、とんでもない裏技というか離れ業を演じた。浪江の水と浪江産のコシヒカリを長井蔵に運んで酒を醸造。できた醪(もろみ)を今度は、新設の「道の駅なみえ」の醸造所に運び、そこで搾って、“浪江蔵復活”第1号のお酒としたのだった。今後は、「道の駅なみえ」の醸造所で、浪江の水、浪江のコメを使って仕込み、搾る。一方、長井蔵はこれまで通り運営。長井蔵と浪江蔵の2蔵体制で運営する。水が長井と浪江とではまったく違うので、両蔵で造ったお酒の味に違いが出てくることが十分予想される。飲み比べが楽しみだ。

 今回のお酒は、ラベルに「道の駅なみえ グランドオープン記念醸造酒」とうたっている。さて、いただいてみる。

 酒蛙「やわらかくて、やさしい口当たりのお酒だ。果実香ほのか」
 ちーたん「飲み口がやわらかだね。直前に飲んだ『かねたまる』が男の子に例えるならば、今回の『磐城壽』は女の子だね」
 酒蛙「たしかに!」
 ちーたん「あまり厚くないね」
 酒蛙「春の霞みたいな、ふわっとした感じで、輪郭があまりはっきりしないイメージ。甘みと旨みが出ておりジューシー。余韻は苦み。全体的に、クリーミーで、まったりとした酒質におもえる」

 裏ラベルのスペック表示は「原材料名 米(国産)米麹(国産米)、原料米 浪江町産コシヒカリ100%、精米歩合55%、アルコール分15度、仕込みロット R2BY3、製造年月2021.04」にとどまり、特定名称酒の区分をしていないのが残念だ。複数の酒屋さんのサイトを見ると、この酒を「純米吟醸」としているが、瓶のラベルではうたっていない。酒屋さんには「純米吟醸」だと知らせ、飲み手が見るラベルに純米吟醸と書かないのはなぜだろう???

 酒名「磐城壽」の由来について、蔵のホームページは「酒銘の『磐城壽』の、『磐城』は地名、『壽』は皆で祝う『壽ぐ(ことほぐ)』とされ、 皆が永く健康的に楽しめる様、酒造りでもその由来が反映されています」とのこと。

酒蛙

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