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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【4491】喜多の華 貴醸酒 1987年 甘口タイプ(きたのはな)【福島県】

2021.2.22 22:12
福島県喜多方市 喜多の華酒造場
福島県喜多方市 喜多の華酒造場

【Z料理店にて 全8回の④】

 久しぶりに近所のZ料理店の暖簾をくぐった。この店には、だいたい2カ月に1回のインターバルで顔を出している。予約すればさりげなく、わたくしが飲んだことがない酒を冷蔵庫に入れておいてくれる。「うちは居酒屋じゃないからね。料理を出す店だからね」とわたくしにクギを刺しながらも、なかなかニクい心遣いだ。

「日高見」「会津中将」「田酒」と飲み進め、4番目の酒を選ぼうとしていたら、店主が「蛙さん、うちにとんでもない酒があるんだよ。ソレ飲みなよ。奥の冷蔵庫に入っているソレだよ」と仲居さんに命じた。3番目「田酒」に続いての店主の“押し売り”だ。出てきたのは、たしかにとんでもない酒だった。

「喜多の華 貴醸酒 1987年 甘口タイプ」。ラベルの字が半分見えない。そのラベル字を必死に解読したら「1987年誕生」と読めた。今から31年前の酒ではないか! さらに裏ラベルの製造年月を見たら「21.11」というタイムスタンプ。これは状況から判断して、平成21(2009)年11月に瓶詰めされた、という意味に読み取れる。つまり以上から、1987年に醸造されたあと、ずっとタンクの中で長期貯蔵し、22年後の2009年に瓶詰めされた、と読み取れる。

 さて、飲んだのはこの酒が誕生してから34年後の2021年1月。瓶詰めされてから12年が経過している。その間、どういう変遷があったのだろうか。店主によれば、「これがウチに来たのは4年くらい前」(まるで嫁が来たような言い方だ)。ではその前の8年間はどこにいたのか? 酒屋さんの冷蔵庫で保管され熟成していたのだろうか? それはともかく、店主の言い分がおかしかった。「ウチにきたとき、これはウイスキーのような色をしていたんだけど、4年くらいたったらコーヒー色になっちまったよぉ~!」

 

 34年前の1987年、わたくしは何をしていたんだろう。振り返ってみると、新聞業界の大きな賞をいただいた年だった。そのときに出来た酒を、仕事をとっくに引退した今いただくのは、なかなかに感慨深いものがある。

 ところで貴醸酒とは、ウィキペディアなどによると、最後の仕込み(一般的に仕込みは3回に分けて行われる)で、仕込水の代わりに純米酒を使った酒。超濃醇な酒に仕上がる。国税庁醸造試験所が、外国からの賓客に飲んでいただくために、平安時代の古文書「延喜式」(927年)に記されている宮内省造酒司による古代酒の製法「しおり」をもとに考案し1973(昭和48)年に開発した酒。「貴腐ワインに似たタイプの酒」ということで、貴醸酒と名付けられた。

 日本の蔵で、最初に貴醸酒を造ったのは広島県呉市の榎酒造で、そのホームページは以下のように説明している。「華鳩では、国税庁醸造試験所の製造特許をもとに1974年、全国で初めて貴醸酒を製造。『誰も飲んだことのない新しい酒にチャレンジし、日本酒の幅を広げたい』という一心で、現会長の榎徹が製造に取り組みました」と記されている。日本で最初の貴醸酒「華鳩 貴醸酒」は、当連載【270】で取り上げている。超甘超とろみ超紹興酒のような、デザート的な味わいだった。当連載では「田酒」の貴醸酒(当連載【4473】も取り上げている。

 さて、コーヒー色の、おどろおどろしい酒をいただいてみる。見た目はエイリアンみたいだが、口に含んだら、意外にまともでびっくりだ。上立ち香は、複雑な香りが鼻腔細胞を刺激し、超熟成香が漂う。味わいと含み香でイメージするのは紹興酒。さらに玩味すると、紹興酒とアンズが一緒になったような味わいだ。やはり甘みが立っており、口の中に残る余韻はカラメル的な甘み。しかし、すごい色とは裏腹に、さっぱりとした口当たりで、キレが非常に良いのには驚かされた。

 瓶の裏ラベルは、この酒を以下のように紹介している。

「通常、純米酒などは、米・米麹・水だけで造るのですが、【貴醸酒】は米・米麹・水・清酒で仕込む大変贅沢で珍しい日本酒です。日本酒を加えることでアルコールの発酵のスピードがゆっくりになるので、貴腐ワインのような上品な甘さ・自然が造り出す独特の香りが楽しめます。冷やして、又はオンザロックで食前酒等にお楽しみ下さい」

 また、蔵のホームページは、この酒を以下のように紹介している。「特別な醸造法で造った非常に濃厚な甘口の味わいです。20年以上長期熟成させた日本酒とは思えない独特の旨さ」

 裏ラベルのスペック表示は「アルコール度数17度、日本酒度-50 超甘口、原材料名 米 米麹 清酒 醸造アルコール、使用米 トヨニシキ、精米歩合 65%、製造年月21.11」。使用米の「トヨニシキ」は農林水産省東北農業試験場栽培第一部作物第一研究室が1960年に母「ササニシキ」と父「奥羽239号」を交配、育成と選抜を繰り返し品種を固定、1969年に命名された主食用米。1975年から1977年の3年間、全国品種別作付面積で2位だったかつてのエース品種。今では、宮城県を中心に酒米に利用されている。

 酒名および蔵名「喜多の華」の由来について、蔵のホームページは以下のように説明している。

「喜多の華酒造場は、大正八年に『星正宗』の銘柄で創業、戦後『喜多の華』の銘柄で復活した復活蔵です。『喜多の華』という名は酒のまち喜多方で一番を目指す事と、皆様に喜び多くすばらしい事(華)がある様に、との願いが込められています」

酒蛙

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