【4436】ふわふわ。 島仕込み 純米吟醸【香川県】

【H居酒屋にて 全2回の①】
なじみのH居酒屋の店主から、ショートメールが入った。「2種類、新しい酒が入りましたよ」。おおっ、それは素晴らしい。さっそく、酒友Yを誘い、H居酒屋の破れかけている暖簾をくぐった。
まずいただいたのは、「ふわふわ。 島仕込み 純米吟醸」。これには笑っちゃったね。というのは、9年半前に飲んだ酒の名をおもいだしたからだ。その名は「うとうと。 純米」(当連載【484】)。「『うとうと。』と『ふわふわ。』。同じ蔵でしょう」と聞いたら、「そう、その通り」。9年半前に飲んだ酒を瞬間的に思い出すなんて、「うとうと。」は、よっぽど強烈に印象に残った酒名だったんだろうな。この最後の「。」は、なんだか「モーニング娘。」をおもわせる。さて、「ふわふわ。」をいただいてみる。
酒蛙「甘みとヨード感がある」
店主「すんげぇ独特な香味。でも、飲みづらくはない」
酒蛙「この含み香は、アイラウイスキーだあ!」
Y 「あ~~~~~~っ! なるほどぉ~~~~! アイラウイスキーとは、こりゃまた、新しい表現方法だ」
酒蛙「味わいを支配しているのは甘みだ」
Y 「不味くなない。味がある」
店主「飲みづらくもない。旨みがある」
酒蛙「軽い辛みがある。余韻も軽い辛み。総じて甘みと辛みのお酒」
それから1週間後、セカンドオピニオンを得るため、酒友ちーたんと飲んでみた。
ちーたん「わっ、すごく色がついている!」(じっさい、酒の色は山吹色)
店主「旨いっ! 1週間前より飲みやすくなった」(デキャンタ効果)
酒蛙「うん、1週間たったら、穏やかでやさしい味わいの酒になった」
ちーたん「香りが複雑。香りが2つに分かれる。1つは、おしとやかな香り。もう1つは薬草というか海苔みたいな香味。海の味だよ」
酒蛙「ヨード感がある。『海の味』と同じだよ。アイラウイスキーをおもわせる。たぶん、ちーたんが言っていることと、俺が言っていることは、意味するところが同じだよ」
店主「この手の酒、好き」
ちーたん「なにこれ、って感じ。面白い。海を飲んでいる感じ」
酒蛙「ヨード感、アイラウイスキー感のほか、カラメル感がある」
ちーたん「カラメル感って、香ばしさってことだね」
店主「そうそう。ウイスキー感も香ばしいし」
瓶の裏ラベルのスペック表示は「原材料名 米(国産)米こうじ(国産米)、精米歩合55%、アルコール分17度、製造年月2020.3」にとどまり、使用米の品種名が非開示なのは残念だ。しかし、蔵のホームページでは、以下のように使用米の品種を明らかにしている。
「純米吟醸酒『ふわふわ。』は蔵で一番人気。ラベルは、雲がゆったりと動く島時間を表しています。果実の香りと帯びたなめらかな味が広がり純米ならではの米の旨みを感じられるおだやかでやさしいお酒です。常温、又は冷やしてお召し上がり下さい。『使用米広島県 千本錦、やや辛口』
【蔵スタッフより一言】
ふわふわ。は、花のような香り。後味スッキリ!紅茶に合うような料理と合いそうです。合う料理:コロッケ、エビフライ、ビーフ炒めなど、チョコレートも良いかも…」
う~む、花のような香りか。感じ方は人それぞれなので異論は挟まないが、わたくしは花というよりは、ヨードだった。
この蔵は、言葉遊びが好きなようで、「ふわふわ。」「ふふふ。」「うとうと。」「びびび。」「はちはち」という酒名を世に送り出している。
ところで、この酒を醸している森國酒造は、ネット情報によると、小豆島では35年ぶりの造り酒屋として2005年2月に創業した。蔵元さんは、IT関連の仕事を経て、香川県高松市内で135年の歴史を持つ酒造会社(奥さんの実家)に勤めたが、「自分たちで新しい酒が造りたい」と2004年に廃業、小豆島へ移動し、創業した。前蔵からの蔵人も若い蔵元さんの意気にうたれ、ついてきてくれた。さらに資材や設備もそのまま再利用することで、初期投資をできるだけ少なくすることができたという。なかなかのドラマだ。
これまたネット情報によると、日本酒の蔵は、減ることはあっても増えることははない、というのが業界の常識。1953(昭和28)年の酒税法制定以来、初の酒蔵誕生、小豆島で唯一、35年ぶりの復活という。そして、森國酒造が2019年4月、小豆島酒造へと運営を移行した。酒造りに携わる人々は変わっていない。