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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【4412】武蔵神亀 純米 原酒 亀ノ尾(しんかめ)【埼玉県】

2020.12.1 22:30
埼玉県蓮田市 神亀酒造
埼玉県蓮田市 神亀酒造

 なじみのH居酒屋の店主から連絡が入った。「新しい『神亀』が入りましたぜ」。おおお、それは行かねばならない。おっとり刀で暖簾をくぐったら、冷蔵庫に「武蔵神亀 純米 原酒 亀ノ尾」が鎮座していた。「神亀」は飲む機会が多い酒で、当連載でこれまで、23種類を取り上げている。古風な頑固親父といったイメージのお酒だ。

 さて、わたくしが瓶をしげしげと見ていたら、店主が教えてくれた。「今までのロゴと違うんですよ」。言われてみて、冷蔵庫内のほかの「神亀」と見比べると、たしかにロゴが違う。しかもこれまでは「神亀」だが、今回は「武蔵神亀」だ。埼玉県は昔、武蔵国だったよなあ。とはるか昔におもいをはせる。

 このロゴの改変について、埼玉県行田市の酒販店・中屋酒店のブログは、以下のように説明している。「ラベルは『亀の尾』が飯米になりますので、『武蔵神亀』を30年ぶりに当時のラベルに校正をかけ復活させました(神亀・ひこ孫は、全量酒造好適米使用)」。つまり、酒造好適米を使った酒でなければ本来の「神亀」のロゴを使えない、ということなのだ。たしかに「亀ノ尾」は明治時代、今でいうコシヒカリのように、全国で一番人気のある飯米だった。これにこだわりこの蔵は「亀ノ尾」を飯米とみなしているのだ。「亀ノ尾」の復活については後述するが、いま「亀ノ尾」を飯米に利用しているところはまず無い。99.99%が酒造用に生産されている。酒米とみなしてもいいようなものだが、蓮田酒造はそうしない。こんなところが、前述したように頑固親父なのだ。

 さて、今回のお酒をいただいてみる。まずは冷酒で。

 酒蛙「濃い。強い。とろみあり。分厚い。含み香は『神亀』のDNA」(強いのも道理。アルコール分は19度だった!)
 店主「濃くて、『神亀』らしい香り」
 酒蛙「辛いっ! かなり強い辛み」
 店主「甘みもけっこう出ている。しかし、おっそろしく辛い」
 酒蛙「甘みのあとの辛みが非常に強い」
 店主「わーっ、こりゃ、量を多く飲むのがしんどい」
 酒蛙「初心者は難しいかな、この酒は」
 店主「無理無理。想像を絶する味だ。上級者向けのお酒だ」
 酒蛙「とにかく味が強い。骨太酒で力強いが、しゃっきり感もある。余韻の苦み・辛みが長い。超濃醇超辛口。わたくしの長い酒飲み人生の中で、一番辛さを感じる酒かも」

 次に40℃(ぬる燗)でいただいてみる。

 酒蛙「うわっ、辛い。甘みも出るが、とにかく辛い」
 店主「わーーーっ、辛い!!! かなり辛い」

 次に、今回の「ちろり」マックスの56℃でいただいてみる。

 酒蛙「おおおおっ、辛みが適度な範囲に収まる。甘みも立つ。辛みと甘みのバランスが良い」
 店主「すげぇーな。甘みが出てくるよ」
 酒蛙「上立ち香はアルコール香がするが、やっとバランスが良くなった。うん、美味しい」
 店主「面倒くさい酒だな」

 いろいろ試した結果、この酒は55℃の「とびっきり燗」が最も美味しい温度帯であることが分かった。

 蔵のオンラインショップは、この酒を以下のように紹介している。

「亀の尾の原酒です。乳酸系の香りの中に穏やかな麹の香り、柔らかいタッチでしっかり旨味があり、さばけの良い切れ味仕上がっております。米の組成を考え、まずは1年熟成での出荷です。常温~50℃位の燗がおすすめで、今までの神亀、ひこ孫シリーズにはない味わいです。ご自身で酒を寝かせて楽しみたい方にお勧め。熱燗〇 ぬる燗◎ 常温◎ 冷や△ 加水火入19%」。いやはやたまげた。「柔らかいタッチ」「さばけの良い切れ味」ですと????? わたくしには、ひたすら辛く感じ、そのような感想を持つには至らなかった。紹介文は、文章が穏やか過ぎるのではないだろうか。

 瓶のラベルのスペック表示は「宮城県産黒澤亀ノ尾100%使用、製造年月2020.4、原材料名 米(国産)米こうじ(国産米)、精米歩合55%、アルコール分19%」。

 使用米の「亀ノ尾」は、1893(明治26)年に世に出た、ごはん用のコメの品種。食味が良いということで明治時代、飯米用に全国で最も多く栽培された。今で言うコシヒカリ的人気のコメだった。しかし、病害虫に弱く、稲が倒れやすいという欠点があり、昭和の始めには完全に姿を消した。

 しかし、幻のコメ「亀ノ尾」は半世紀後によみがえる。その立役者は、新潟県長岡市の久須美酒造6代目当主・久須美記廸さん。「亀ノ尾で造った酒にまさる酒はない」と聞いた久須美さんは「そのコメでぜひ酒を造りたい」とロマンをふくらませ、「亀ノ尾」探しを始めた。まず、茨城県筑波の農水省種子センターから種籾を分けてもらった。この種を植え、1980(昭和55)年の秋には、10本の稲穂ができ、これから1,500粒の種ができた。翌81年、これをもとに963本の苗をつくり、30kgを収穫。さらに翌82年、9人で「亀の尾生産組合」をつくり、1haに作付けし、4,8トンを収穫するまでになった。そして83年、ついに、銘酒「清泉 純米大吟醸 亀の翁」が誕生したのだった。
 さらに、このコメ作り・酒造り物語が、漫画「夏子の酒」(尾瀬あきら作)のモチーフとなり、そして1994年、連続テレビドラマ「夏子の酒」(フジテレビ系)が放送された、という。

 酒名および蔵名「神亀」の由来について「日本の名酒事典」は「酒名は、蔵の裏の天神池に棲むという、神の使いの亀にちなむ」と説明している。

酒蛙

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