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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【4336】裏萩の鶴 生原酒 おりがらみ(うらはぎのつる)【宮城県】

2020.9.13 22:33
宮城県栗原市 萩野酒造
宮城県栗原市 萩野酒造

【E居酒屋にて 全9回の⑥】

 なじみのE居酒屋のバイトNさんからカラオケの勝負を挑まれた(E居酒屋にはカラオケ装置がある)。精密採点(コンマ3桁まで採点される)で勝負しようというわけだ。Nさんは、なかなかの自信家だ。課題曲は「危険なふたり」(沢田研二)と「最後もやっぱり君」(Kis-My-Ft2)の2曲。わたくしはこの1カ月、決戦に備えスナックやボックスなどで、この2曲の練習をしてきた。そしてこの日、さあ勝負だ! とE居酒屋に乗り込んだ。ところがNさんは所用ということで不在。なんということだ。

「古伊万里」「裏百楽門」「裏死神」「日下無双」「月桂冠」と飲み進め、6番目にいただいたのは「裏萩の鶴 生原酒 おりがらみ」だった。萩野酒造の酒はわたくしの口に非常に合い、当連載でこれまで、「萩の鶴」「日輪田」を合わせ31種類取り上げている。甘みと酸、そして後味の苦みが強いきれいな酒、というイメージを強く持っている。

 萩野酒造のお酒には一種の生真面目さをわたくしは感じている。だから、“裏”が出たときは、びっくり仰天した。“裏”を出したいきさつについて、青森県平内町の辻村酒店のサイトは以下のように説明している。

「この春、しぼりたてとして発売されたお酒でしたが、コロナ禍の影響で飲食店さんは自粛or休業。お酒を買い楽しむという雰囲気も膨らまず、例年の様には出荷数が伸びず。萩野酒造の考える飲み頃のピークを考えると、このままでは廃棄も止む無しという状況だったそうです。
 しかしせっかくのお酒を無駄にしたくない、一本でも飲んでもらいたい、との考えから、ほぼ原価割れの価格での発売に至りました。正に苦渋の決断がありました。
 我々酒屋は通常の価格で一本でも多く売ってさし上げたかった。取引先として力になれなかった、本当に情けない話です。手塩にかけた酒を廃棄したくないという『心意気』をどうぞ飲んでください」

 心ならず、コロナ禍で生じた「裏」だったのだ。“責め”の部分を売るための“裏”ではなかったのだ。これを知ったのは、後日、この文章を書くとき。飲んだときは、そのようなことがあったとはつゆ知らず、「なぜ“裏”なんだろう???」と疑問におもいながら飲んだものだった。

 香り抑え気味で、甘旨酸っぱい味わい。中盤から辛みを感じる。そして、エンディングは「萩の鶴」の“DNA的苦み”がやや強い。酸が非常にチャーミング。酸と苦みのコラボレーションが面白い。そして旨い。極めて真っ当なお酒だった。“裏”を付けたのは蔵元さんの矜持なのだろうが、飲み手にしてみれば、“表裏”関係なく、高レベルの旨いお酒だとおもった。

 瓶の裏ラベルのスペック表示は「原材料名 米(国産)米麹(国産米)、アルコール分15度、製造年月2020.5」。特定名称の区分や精米歩合は非開示だ。おそらく、忸怩たるおもいで発売した酒だから、蔵元さんの矜持で非開示にしたのだ、と勝手に想像している。味わってみたところ、純米吟醸クラスだと感じた。

 酒名「萩の鶴」の由来について、蔵のホームページは以下のように説明している。

「ここ金成有壁(かんなりありかべ)は、その昔『萩の村』と呼ばれていました。その名の通り萩の花の美しさで知られ、今でもたくさんの萩が見られます。そこから『萩』をとり、縁起のよい『鶴』と組み合わせて名付けました。昔から地元で幅広く愛されてきた当蔵の中心銘柄で、宮城らしいキレイでスッキリとした飲み飽きのしない酒質を目指します。味の濃すぎない上品な和食や、クセの強過ぎない新鮮な海の幸等と合わせて欲しいお酒です」

酒蛙

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