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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【4307】愛宕の松 ひと夏の恋 純米吟醸(あたごのまつ)【宮城県】

2020.8.21 16:47
宮城県大崎市 新澤醸造店
宮城県大崎市 新澤醸造店

【E居酒屋にて 全6回の①】

 コロナ禍による非常事態宣言が解除された当地では、居酒屋の客が徐々に戻りつつある。なじみのE居酒屋も同様だ。しかしやっぱり、コロナ前とは様子が違うようで、冷蔵庫の酒の消費速度がはかばかしくない、という。早く、コロナ前の活況に戻ってほしいものだ。E居酒屋は、酒の品揃えのセンスがなかなか良いのだから。

 飲む前に、冷蔵庫の前に立ち今夜飲む酒を決めてしまうのが、わたくしのやり方。そして、順番も決める。この、順番が大切なのだ。それぞれの酒の長所を十分感じられるよう、淡麗な酒から濃醇な酒へ、あるいは辛口から甘口へ、とシフトしていくのが定石だ。

 冷蔵庫の前で呻吟していたら、ママが声を掛けてきた。「『ひと夏の恋』なんていかがでしょうか?」。「ん? それならかなり前に飲んだことがあるよ」(当連載【211】参照)とわたくし。どうやらドツボにはまってしまったようだ。満面の笑みのママが言うではないか。「以前、ラベルの2個のハートはくっついていたでしょ? これ、離れているのよ」。ぬぬぬ、コロナ感染防止の“ソーシャルディスタンス”だああああ! くそっ! やられちまったぜ!!! なかなかの知恵者の蔵元さんだ。

 しかし、わたくしは抵抗を試みる。「ラベルを替えただけで、中身は一緒じゃないの? それだと、いささかあざといぜ」。が、ママは切り返す。「当然、中身は違っていますっ!」。こんなやりとりがあったあとで、いただいてみる。

 上立ち香、含み香ともに果実香がほのか。穏やか、やわらか、やさしい、ふくよかな口当たり。なんだか、同じ言葉の4連発だ。しょうがない。手帳にそうメモしているのだから。極めて幼児的表現だが、まあいいのだ。やさしい甘旨みが、適度もしくは軽め。酸の出方がジューシー。さわやかな酸が非常にかわいい。余韻は軽い苦み。軽快感があり、キレも良い。上品感のある口当たりと味わい。酸がキュートなため飲み飽きしない。まさしく食中酒。

 瓶の裏ラベルは、この酒を以下のように紹介している。「『究極の食中酒』を意識し、夏の食材を一層引き立たせます。綺麗で爽やかな中にも芯のある味わいです。ひと夏だけの限定酒に恋していただければ幸いです」

 ソーシャルディスタンスについて、酒販大手「はせがわ酒店」(東京)のサイトは以下のように説明している。

「ハートラベルが可愛いひと夏の恋は、『緊急事態宣言』が延長されたことを受けて、急遽ハート達も密回避のため距離を保つことに。いつも寄り添い暑い夏を過ごしてきた2人ですが、愛のため、今年は少し距離をおいています。味わいも例年より少しだけ甘さ控えめでソーシャルディスタンスを感じます。ラムネのような香りときれいな酸とキレがなんとも爽やかな今年の恋です」

 よく見ると、ラベルのハートの下に英文が載っている。
「Together apart」「You can't quarantine love!」

「Together apart」は「離れていても一緒だよ」か。
「You can't quarantine love!」は直訳的に訳すと「誰も、わたしたちの愛を隔離(検疫)なんかできない」となり意味が分からないので、意訳して「誰にも、わたしたちの愛につべこべ(検疫)言わせない」となるのかな。

 裏ラベルのスペック表示は「「アルコール分16度、精米歩合55%、原材料名 米(国産)米麹(国産米)、製造年月2020.6」にとどまり、使用米の品種名が非開示なのは残念だ。

 酒名「愛宕の松」の由来は、蔵のある大崎市に、愛宕山公園と愛宕神社があることによる、とみられる。

酒蛙

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