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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【4268】御前酒 1859 生 プロトタイプ 純米(ごぜんしゅ)【岡山県】

2020.7.17 21:34
岡山県真庭市 辻本店
岡山県真庭市 辻本店

【E居酒屋にて 全12回の③】

 ほぼ4年ぶりにE居酒屋の暖簾をくぐった。この店は酒の品揃えがなかなか素晴らしいのだが、どういうわけか近年縁遠く、不義理を欠いていたわたくしだったが、ママはにこやかに迎えてくれた。

「花笑み」「新橋の男達の酒」と飲み進め、3番目にいただいたのは「御前酒 1859 生 プロトタイプ 純米」だった。辻本店は、奈良県桜井市の今西酒造(主銘柄は「みむろ杉」)とともに、菩提酛による酒造りに取り組んでいることで知られる。

 菩提酛は、奈良県の菩提山正暦寺で室町時代の1440年代に開発された、といわれている、清酒づくりの原点的な技術。これについて辻本店のホームページは、以下のように説明している。

「『菩提もと』は別名『水もと」とも呼ばれ、『もと』の仕込み水に乳酸菌を沸かせたものを用います。具体的には、仕込み水に生米と炊いたご飯を入れて酸性にしたものを『そやし水』と呼び、これを『もと』の仕込み水として使用します。
『御前酒菩提もと』は、従来の『菩提もと』の製法をベースに先代杜氏、原田 巧が試行錯誤を繰り返して御前酒の蔵に適した製法として生み出した新しい『菩提もと』。少量の米麹を水に浸け、乳酸菌を繁殖させ『そやし水』を作る。乳酸が大量に生成された頃に一度、加熱殺菌し安全性を高めてから仕込水として使う」

 乳酸菌・乳酸を使うのは、雑菌の繁殖を防ぐためである。

 さて、今回の酒の瓶の裏ラベルには「雄町の未来は、御前酒が醸す」と題し、以下の口上が掲載されている。

「1859年、岡山の地で酒米『雄町』の歴史がはじまりました。そして全国に先駆けて当蔵で再現・製造に取り組んだ古代製法『菩提酛』。御前酒の更なる醇化に向けて『御前酒1859』から全量『雄町×菩提酛』で醸すことを目指します」。おおおおっ、これはすごい。この蔵は今後、全量、岡山県発祥の「雄町」と、清酒づくりの原点「菩提酛」でいく、と宣言しているのだ。全国の酒蔵の中でも、超個性的な蔵になっていくのだろう。将来が非常に楽しみだ。さて、その「雄町×菩提酛」のプロトタイプ(試作版)をいただいてみる。

 口に含んで「おやっ?」とおもった。やわらかな酸を感じ、おだやかに膨らむ旨みを感じるのだ。実においしい。そして、これが菩提酛か?と。「おやっ?」とおもった理由はそこにあった。菩提酛で醸した酒は、「みむろ杉」で多く味わってきた。そのイメージは、骨太で強い酸と分厚い旨み。これに慣れた口で今回の酒を飲んだものだから、舌が戸惑った。同じ菩提酛でも、正反対の味わいだった。

 とはいっても、菩提酛らしさは、すこしは感じる。非常に上手にまとめている。さわやかで穏やかな旨酸っぱいお酒。非常にジューシーな味わいの、モダンなお酒だった。日本で一番古い酒米「雄町」と、日本で一番古い醸造技術「菩提酛」で醸したお酒が、なんと非常にモダンな味わいとは! これはもう笑うしかない面白さだ。飲み進めていたら、次第に酸が前に出てくるが、酸は出しゃばらず、キレが良い。まっこと、いい酒だ。大きな飛躍を予感させる新生「御前酒」であった。

 瓶の裏ラベルのスペック表示は「原料米 岡山県瀬戸産雄町米100%使用、原材料名 米 米こうじ、原料米はすべて岡山県産)、精米歩合65%、アルコール分16度、杜氏 辻麻衣子(備中杜氏)、製造年月19.12」。

 この蔵の主銘柄「御前酒」の由来について、コトバンクは「酒名は、勝山藩御用達の献上酒であったことに由来」と説明している。

酒蛙

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