メニュー 閉じる メニュー
文化

文化

日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【4182】刈穂 特別純米 渡船(かりほ)【秋田県】

2020.3.16 18:08
秋田県大仙市 秋田清酒
秋田県大仙市 秋田清酒

【B居酒屋にて 全5回の⑤完】

 当連載「日本酒津々浦々」は、原則として同じ酒を2回載せることはしていない。ごく例外的に2回載せたものが2種類ほどある程度だ。このため常日ごろ、飲んだことがない酒を求めている。このB居酒屋は、わたくしが飲んだことがない酒が冷蔵庫に入っていることが多いので、必然的にしばしば“取材”に訪れることになる。

「山の井」「悦凱陣」「川鶴」「木戸泉」と飲み進め、最後5番目にいただいたのは「刈穂 特別純米 渡船」だった。「刈穂」は飲む機会が多く、当連載でこれまで、16種類を取り上げている。

 さて、今回のお酒について、瓶の裏ラベルは「刈穂蔵が『渡船』で仕込んだ特別な逸品。香りは穏やかで、後味のキレの良いシャープな味わいです。『山田穂』との味わいの競演をお楽しみください」と説明している。

 この説明が実に曖昧なのだ。この曖昧さに苦言を呈したい。今回の酒について、ネットで各酒屋のサイトを見ると、「刈穂 山田穂 特別純米」(当連載【4137】)と“ペア”の扱いだ。すなわち、酒米の王様「山田錦」の両親で醸した酒、という位置づけだ。「山田錦」の母は「山田穂」、父は「短稈渡船」である。今回の「刈穂 特別純米 渡船」は、「山田錦」の父で醸した酒、といううたい文句だ。

 刈穂蔵はなぜ、「短稈渡船」と書かず「渡船」という表記にしたのだろう。理由はさまざまあろうが、わたくしはこの表記に強く異議を唱えたい。なぜならば、酒米として、「短稈渡船」も「渡船」も存在しているからだ。

 コメの系統図で最も信頼度が高い「国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 次世代作物開発研究センター イネ品種データベース」によると、「山田錦」の父は「短稈渡船」。そして「短稈渡船」の祖先が「渡船」という系統となっている。

 ネット情報によると、「渡船」は1895年に滋賀県立農事試験場が備前雄町から選抜した系統とのこと。また「渡船」について、茨城県石岡市の酒蔵「府中誉」のホームページは以前、「幻の酒米『渡船(わたりぶね)』を復活 地元産の酒米で真の地酒をめざす」と題し、以下のように説明していた。

「明治・大正期の酒米『渡船』は、背丈が高い上に収穫時期が遅く(10月末)、病虫害に弱いなど栽培は容易ではないため、作付けは途絶えておりましたが、酒造りに最適な超軟質米であることが知られておりました。弊社は、平成元年、つくば市の生物資源研究所から貴重な種籾一握りを分けて頂き、全国で唯一、地元つくば山麓の谷津田で丹念に復活栽培して参りました。この米で仕込んだ清酒『渡舟』は、他の酒米のそれにはない、独特のふくよかな香味の酒としてご評価いただいております」

 以上のように、「短稈渡船」も「渡船」も存在している。しかし、ネット上で酒屋さんはこぞって、今回の「渡船」は「短稈渡船」のことだと書いている。酒屋さんは、普通、蔵元さんからのPR文をそのままネットに掲載している。だから、刈穂蔵は今回、PR文には「短稈渡船」で醸した、と書いている可能性が大きい。しかし、瓶のラベルには「渡船」。そして裏ラベルには「『山田穂』との味わいの競演をお楽しみください」と、おもわせぶりに書いている。この行間を読めば「短稈渡船」のことと読み取れる。この曖昧さに苦言を呈したいのだ。

 さて、今回のお酒をいただいてみる。かぐわしい上立ち香。軽めでやわらか、やさしい口当たり。酸が出ており、旨みは適度。余韻は苦みに酸がやや加わる。これまで「刈穂」には、しっかりした味わいで安定感のある辛口酒、というイメージを勝手に持っていた。質実剛健というイメージをもっていたが、今回の酒はやわらかくて、やさしいのだ。穏やかでマイルドなのだ。しかし、刈穂に共通するキレが良い。「山田錦」の母で醸した「刈穂 山田穂 特別純米」(当連載【4137】)と比べてみると、「山田穂」の方が、よりジューシーな味わいだとおもった。もっとも、グラス2つに注ぎ、同時に味わわなければ正確には分からないが・・・。

 瓶の裏ラベルのスペック表示は「製造年月2019.11、アルコール分17度、精米歩合60%、原材料名 米(国産)米麹(国産米)、原料米 渡船100%」。 

 酒名「刈穂」の由来について、蔵のホームページは以下のように紹介している。

「刈穂の酒名は、飛鳥時代の天智天皇(626年-671年)の和歌『秋の田のかりほの庵の苫をあらみ我が衣手は露にぬれつつ』に由来します。この詩は田畑を耕す農民の生活を思いやった和歌といわれており、酒造りをするものにとって深い意味を持っています」

 

酒蛙

関連記事 一覧へ