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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【4181】木戸泉 アフス・フライ 2017 純米 高温山廃一段木桶仕込(きどいずみ)【千葉県】

2020.3.15 21:20
千葉県いすみ市 木戸泉酒造
千葉県いすみ市 木戸泉酒造

【B居酒屋にて 全5回の④】

 当連載「日本酒津々浦々」は、原則として同じ酒を2回載せることはしていない。ごく例外的に2回載せたものが2種類ほどある程度だ。このため常日ごろ、飲んだことがない酒を求めている。このB居酒屋は、わたくしが飲んだことがない酒が冷蔵庫に入っていることが多いので、必然的にしばしば“取材”に訪れることになる。

「山の井」「悦凱陣」「川鶴」と飲み進め、4番目にいただいたのは「木戸泉 アフス・フライ 2017 純米 高温山廃一段木桶仕込」だった。当連載はこれまで「木戸泉」のお酒を8種類取り上げている。ざっくり、非常に酸の立つ古酒、というイメージを持っている。今回のお酒はどうか。いただいてみる。

 グラスに注ぐと、酒が琥珀色に色づいている。酸っぱい。古酒香むんむん。例えが変だが、“古酒的な白ワイン”というイメージのお酒だった。甘みと旨みもかなり出ているが、それをはるかに上回る酸の出方だ。非常に酸っぱい、激しく酸っぱい。シナモン・バニラ・カカオ・カラメル・紹興酒を混ぜたような古酒香が、非常に香ばしい。好き嫌いが分かれる酒だとおもうが、酸味酒が好きなわたくしとしては、大大好きなお酒だ。

 瓶の裏ラベルは、この酒を以下のように説明している。

「フライという銘は自然環境豊かな象徴であるトンボ(dragonfly)やホタル(firefly)が飛び交う(fly about)景観を残していきたいという想いが込められています。その想いからいすみ市内で自然栽培による米作りをはじめ、その米を精米歩合90%使い木桶で仕込み、酵母・乳酸菌も無添加で醸しました。木戸泉酒造を標榜する自然醸造を最大限に表した一本に仕上げました」

 裏ラべルのスペック表示は「造り/純米酒 木桶仕込み、酵母・乳酸菌無添加、原材料名/米・米こうじ、国産米100%使用、精米歩合/90%、原料米/自然栽培米100%、アルコール分/13%、製造年月(瓶詰年月)2018.04、出荷年月(蔵出年月)2018.10」

 これだけでは、なんのことだか、ちんぷんかんぷんだ。そもそも「AFS」ってなんだ? これについて、日本酒情報サイトの「SAKETIMES」は、以下のように説明している。

「山本有三の小説『真実一路』の舞台となった千葉の大原、太平洋に面する海水浴場近くの酒蔵が、木戸泉酒造。全国で唯一、高温山廃造りのみ酒造りだ。乳酸菌発酵による無添加で造られる酒は、しっかりした味の骨格と、太く豊かな酸を持ち、コアなファンが多い。特徴的なこの酸味を、もっとも生かした熟成酒が『AFS』である。安達源右衛門、古川董、庄司勇、酒を開発した3人の頭文字をとって名づけられた。 いわば“0段仕込み”。高温山廃酒母をそのまま搾って造っている。ただでさえ濃厚な高温山廃造りの酒が、さらに濃厚に進化して、酸味と甘味がパワーアップ。同量の酒を造るのに、三段仕込みの酒の十倍以上、手間をかけて造った貴重な酒。そして、その手の込んだ酒を、さらに数年以上熟成させて古酒にした。酸味と甘味が豊かな酒ほど、熟成すると美味くなるのだ。数年から、最も古いものは40年も熟成させている。熟成古酒は数あれど、ここまで濃厚な酸味があるのはAFSだけだ」

「SAKETIMES」の記事で「AFS」の謎は分かったが、「高温山廃造り」と「一段仕込み」がきちんと説明されていない。「高温山廃造り」について、木戸泉酒造のほかの商品の裏ラベルは、「当社の醸造法は高温山廃仕込みと言い、従来の乳酸添加による速醸酒母ではなく、生の乳酸菌を用いて高温(55℃)で酒母を仕込む方法です」と説明。

 また、「一段仕込み」については、普通の酒造りは、米・米麹などを3回に分けて仕込む(三段仕込み)。これは、一度に仕込むと乳酸菌が薄まりもろみが腐敗する恐れがあるため、乳酸菌を増やしながら3回に分けて仕込む方法だ。ところが、今回のお酒は、米・米麹を一度にすべて入れて仕込む方法で醸した。だから、一段という。

 しかも、乳酸を添加するのではなく、蔵内の乳酸菌を呼び込んで増殖させ、その乳酸菌で腐敗を防いでいるから、すごい技術だ。また、酵母も蔵内に棲みついている菌を使う徹底ぶりだ。

 ちなみに、この酒の精米歩合は90%という低精白。日常食べている食用米の精米歩合は約92%だから、ごはん並みの精米歩合で醸した酒だ。より自然に近いコメというわけだ。

 ただ、不思議なことがある。なぜ古酒香が出ているか、だ。ラベルには「2017」と大書されている。これは酒造業界の一般常識では酒造年度を意味する。すなわち「2017」とは2017年7月から2018年6月までに醸造した酒、という暗黙の了解がある。瓶の裏ラベルを見ると、「製造年月(瓶詰年月)2018.04、出荷年月(蔵出年月)2018.10」と書かれている。これらから分かることは、醸造してからあまり熟成期間を置かずに瓶詰めし、6カ月熟成させて蔵出ししたことになる。ざっくり言うと、醸してから約2年くらいの酒を飲んだわけだが、飲んでみて、10年くらい熟成させた酒の味におもえた。たった2年で、このような味が出るものか? 普通の製造方法では、2年でこのような味は出ない。高温山廃造りだから、このような古酒香が強く出るのだろうか???

 醸造元木戸泉酒造の酒名や蔵名の「木戸泉」の由来について、蔵のホームページは「この地で造り酒屋を始めた明治12年(1879年)。屋号である『木戸』に酒をあわらす『泉』で『木戸泉』を銘柄としてきました」と説明している。

酒蛙

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