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文化

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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【4163】月の輪 特別純米 生詰 H9BY(つきのわ)【岩手県】

2020.3.3 14:54
岩手県紫波郡紫波町 月の輪酒造店
岩手県紫波郡紫波町 月の輪酒造店

【B居酒屋にて 全5回の⑤完】

 当連載「日本酒津々浦々」は、原則として同じ酒を2回載せることはしていない。ごく例外的に2回載せたものが2種類ほどある程度だ。このため常日ごろ、飲んだことがない酒を求めている。このB居酒屋は、わたくしが飲んだことがない酒が冷蔵庫に入っていることが多いので、必然的にしばしば“取材”に訪れることになる。

「初亀」「七本鎗」「花陽浴」「白老」に続き、最後5番目にいただいたのは、「月の輪 特別純米 生詰 H9BY」だった。「月の輪」は当連載でこれまで、2種類を取り上げている。

 仰天したのは、瓶の肩ラベルだった。そこには「H9BY」と書かれているではないか。これは、平成9(1997)年7月1日から平成10(1998)年6月30日の間に醸されたお酒、という意味だ。ざっと22年古酒。このようなコストのかかった古酒が流通に乗っていることが驚きだった。

 さらにラベルを見ると、「生詰」「製造年月2019.3」と書かれている。生詰めの意味は、酒蔵タンクに貯蔵される直前は火入れを行うが、瓶詰めの直前には火入れしないものを言う。代表例は、冬に火入れしてタンク貯蔵。一夏熟成させ、秋に火入れせずに瓶詰めして蔵出しする「ひやおろし」だ。

 これを当てはめれば、今回の酒は、以下のような経過となる。蔵は約22年前、このお酒を火入れ処理してから一定期間、タンクで熟成させたのち、火入れをしないで瓶詰めした。21年間、タンク貯蔵するわけがないから、そのように推論した。瓶詰めされたお酒を約21年間、冷蔵庫の中で保管してきた。どんな目的で、こんなに長期間保管してきたのかは分からない。そして、これまたなぜか21年後の昨年3月、蔵出しし、流通に乗せた、ということになる(たぶん)。 

 なぞに満ちたお酒をいただいてみる。22年古酒だから、酒は茶色に変色しているのでは、とおもったが、意外にも濃くはない山吹色だった。グラスに注ぐと古酒香が立つ。グラスに鼻を近づける(上立ち香)と、酸が感じられる。バニラ・カラメル・紹興酒を混ぜたような、香ばしい典型的な熟成香ではあるが、22年古酒にしてはそれほど強烈ではない。

 含むと、これまた予想とは違い、さらっとした口当たり。まろやかではあるが、さらっとした酒質の方が印象に残る。味わいは、甘旨より酸の方が立つ。そして、紹興酒っぽい熟成香味の中に、果物の「あんず」(杏)を感じたのは面白いとおもった。そんなとき、盗み酒をした仲居さんが「この酒、カカオの香りを感じる。チョコレートだよぉ~!」と大声を上げた。本当かよ、とおもいながら玩味したら、たしかにカカオを感じた。このように、熟成酒はいろんな香りや味を楽しめるお酒なのだ。

 さて、瓶の裏ラベルのスペック表示は「原材料名 米(国産)米麹(国産米)、アルコール分17度、精米歩合55%、製造年月2019.3」。使用米の品種名が非開示なのは残念だ。

 酒名および蔵名「月の輪」の由来について、蔵のホームページは以下のように説明している。

「源頼義、義家父子が厨川の柵に安部貞任を攻略に来た時に3万2千の軍団を偵察のため宿営させたのが現在の蜂神社にあたる場所で、蔵の近くにあります。義家は兵士、兵馬のための飲料を得るために池を掘ったそうです。たまたま9月15日の月夜に源氏の旗に描かれた日月が池に写り、金色に輝いたといい、これを見た将軍頼義は兵士一同に『これ厨川柵攻略の吉兆なり、直に進軍せん』と命を下し、17日には厨川を陥落させました。
後に陸奥守鎮守府将軍藤原秀衡がこの池を訪れ、その吉兆の話を聞いて池を円形に修理しその中に太陽と三日月を模った島を作ったのが今に残されており、これを『月の輪形』と呼んだと伝えられています。現在この『月の輪形』は紫波町の史跡に指定されております」

 

酒蛙

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