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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【4127】黒松剣菱 瑞穂(くろまつけんびし みずほ)【兵庫県】

2020.1.30 12:56
兵庫県神戸市東灘区 剣菱酒造
兵庫県神戸市東灘区 剣菱酒造

【A居酒屋にて 全7回の⑤】

 酒友オタマジャクシと美女軍団の飲み会が開かれた。この会は、Nオーナーの店について回り、K亭、P店と会場が変遷。今回はA店というわけだ。Nさんは唎酒師ではあるが、日本酒の海外バイヤーの仕事が本業。そして、居酒屋のオーナーを兼ねている、というエネルギッシュな方だ。ただ、生Nさんはいたってシャイ。それでいて、内に秘めた熱い思いが時々ちらっと出る好人物だ。

 一方わたくしは、日本の全現役蔵の酒を飲むことを目指しているが、一人の力では制覇は難しい。このため、複数の方々のお世話になっているが、Nさんも協力者の一人。A店で飲み会を開くたび、わたくしにとっての初蔵酒を何種類か用意してくれる。それがありがたくて、たまらない。本当に感謝、感激だ。

「御殿桜」「三笑」「雪彦山」「蜂龍盃」と飲み進め、5番目にいただいたのは「黒松剣菱 瑞穂」だった。これも「三笑」「雪彦山」と同じく、Nさんの友人の女性日本酒ライターSさんが提供してくれた、わたくしにとっての初蔵酒だ。本当にありがたい。

 このお酒を出すとき、店主のNさんが「はい、剣菱、初蔵酒でございます」と言った。わたくしが「えっ? 剣菱は何回も飲んでいるよぉ~」というと、NさんとSさんが顔を見合わせ笑いながら「だって、蛙さんの既飲蔵リスト(2019年12月21日現在1168蔵)に剣菱酒造は載っていなかったも~ん。ねぇ~~」と言い合うではないか。やややや。動揺しながら、スマホに入れている既飲蔵リストを見たら、たしかに載っていなかった。この連載「日本酒津々浦々」は2010年1月から始まった。既飲蔵リストは、連載掲載蔵である。それに載っていないのに何回も飲んでいる、ということは、2010年1月以前に何回も飲んでいた、ということだったのだ。

 気を取り直しいただいてみる。温度は室温で。

 酒蛙「熟成香が立っている。すなわち、バニラ・カラメル・紹興酒を混ぜたような香り。実に香ばしい」
 美女Sさん「熟成香がすごくしていますね」
 美女Mさん「味に深みと幅があり、余韻があるから美味しい」
 酒蛙「Mさん、すごい表現だね。その通りだ」
 美女Sさん「これ、美味しい」
 ウッチー「旨みもある」
 女性日本酒ライターSさん「ブレンダーがいるんです」
 酒蛙「なるほど。そうだろうなあ。半端な味覚じゃ、これと同じものを造れないものね。熟成香がふくらむ。旨みに奥行きがある。辛みもいい感じで出ている。そして旨みがかなり出ており濃醇なのに、キレがかなり良い。旨いなあ」

 このような酒質だと燗映えするに決まっている、と勝手に判断。燗酒をつけてもらう。出てきた燗酒は推定温度55~60℃のとびっきり燗だった。

 酒蛙「猪口に注ぐとき、遠く離れていても古酒の香りが漂ってくる。旨み、酸、甘み、辛みがさらに出てきた」
 美女Mさん「美味しい」
 酒蛙「ふくよかな口当たり。酒に厚みも出てきた。輪郭がさらにはっきりしてきた」
 Nさん「このお酒、レベルが違いますから」
 ウッチー「酸がきつい」
 酒蛙「室温でも熱燗でも両方いい」

 瓶の裏ラベルはこの酒を以下のように紹介している。

「優雅な香りと剣菱ならではのコクのある円熟な味わい。華やかな余韻を残しつつも後味の引かないキレの潔さ。その贅沢な駆け引きが織りなすふくよかな奥ゆきが一杯、二杯と味わい深く、飲むたびに新たな発見をさせてくれます。
※米本来の豊潤な旨味を味わっていただくために過剰な濾過を行っておりません。そのためにやや黄金色をしておりますが品質に問題はございません」

 また、蔵のホームページはこの酒を以下のように紹介している。

「兵庫県産山田錦を使用し、2年以上熟成させた酒のみをブレンド。優雅な香りと、剣菱ならではのコクのある円熟な味わい。
華やかな余韻を残しつつも、後味の引かないキレの潔さ。その贅沢な駆け引きが織りなすふくよかな奥行きが1杯、2杯と味わい深く、飲むたびに新たな発見をさせてくれます」

 瓶の裏ラベルのスペック表示は「酒質 濃醇 円熟、アルコール分17.5度、原材料名 米(国産)米麹(国産米)、製造年月31.4.26」にとどまり、特定名称酒の区分表示や精米歩合、使用米の品種は開示されていない。これについて、蔵のホームページは以下のように説明している。「剣菱の商品には、精米歩合のラベル表示をしておりません。理由は、毎年異なる条件下で育ったお米のできに合わせて精米歩合を変えているから。すべては、変わらぬ味を守り続けるため。 “肩書き”よりも“味”。それが、私どものポリシーです」

 2年以上熟成させた酒のみをブレンドし、毎年精米歩合を変えている、この2つの理由で、特定名称酒の区分表示や精米歩合、使用米の品種表示していない、というのだ。すなわち、表示したくても表示のしようがない、ということなのだ。ただ、純米系のお酒であることだけは分かる。

 近年「飲み手に予断を与えたくないから特定名称や精米歩合を明らかにしません」と宣言する蔵が多く見られる。わたくしに言わせればそれは“上から目線”。堂々とスペックを公開し、飲み手に堂々と判断してもらえばいいのに、といつも不満におもっている。答を隠され、テストを受けているような感じを受け、実に不愉快なおもいをしている。

 その点、剣菱酒造は、精米歩合を公開しない理由をきちんと述べている。これなら飲み手も納得する。気持ち良く飲める。

 酒名および蔵名の「剣菱」の由来についてコトバンクは「酒名は、不動明王が持つ降魔(ごうま)の剣の剣身と鍔(つば)の形に由来」と説明している。

酒蛙

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