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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【4106】播州一献 七宝 感謝 純米 無濾過生原酒(ばんしゅういっこん しっぽう)【兵庫県】

2020.1.9 12:34
兵庫県宍栗市 山陽盃酒造
兵庫県宍栗市 山陽盃酒造

【S居酒屋にて 全9回の⑥】

 年に1~2回飲んでいる5人グループ。もともとTとわたくしは仕事で知り合い、よく2人で飲んでいた。Tの友人が次々に加わり5人のメンバーとなった。場所は、酒の種類が非常に多い東京・銀座のS居酒屋だ。メンバーのうち2人が都合がつかず欠席。今回は3人で飲んだ。

「東鶴」「緑川」「花の香」「千代むすび」「「白岳仙」と飲み進め、6番目にいただいたのは「播州一献 七宝 感謝 純米 無濾過生原酒」だった。「播州一献」は当連載でこれまで、6種類を取り上げている。旨みと酸が出ている力強い酒、というイメージを持っている。

 今回の酒のラベルには「感謝」と書かれている。これには、2018年に蔵が火災に遭った際、多くの人々から支援や励ましを受けたので、1年たったいま、恩返しをしたい、という意味が込められている。

 火災の状況は、以下の通り。これは、2018年11月13日付の 神戸新聞ウェブサイトからの引用だ。

「8日朝の火災で県景観形成重要建造物の母屋などが燃えた山陽盃酒造(兵庫県宍粟市山崎町山崎)で、酒の出荷や仕込み作業が再開した。同社の銘柄『播州一献』は国内外の三つ星レストランや有名ホテルで扱われるなど人気で、応援メッセージや支援物資が全国から千件近く届いているという。『ファンの方々に早く新酒を届け、負けずに頑張っていることを伝えたい』と、蔵人らが仕込み作業に駆け回った。
 火災では、古い道具類を保管していた築約150年の倉庫と、山崎地区を代表する歴史的建造物だった母屋が燃えた。同社によると、ボイラーの煙突に穴が開き、吹き出た熱風で倉庫の壁の柱などが炭化して発火した可能性があるという。
 醸造設備がある仕込み蔵などは大きな被害を免れており、12日午前には酒米を洗い、蒸す作業を始めた。製品の出荷もこの日から再開した。
 火事の後片付けには近隣住民や姫路酒造組合の仲間らも駆けつけた。同社の壺阪雄一専務(38)は『多くの方に力をいただいた。このご恩を返していきたい』と感謝した」

 瓶の首に掛かった大きなタグには「未来へ」と題し、支援への感謝と、これからの決意を以下のように述べている。

「2018年11月8日発生した火災により、蔵の約半分を失い、先が見えず絶望的な気持ちになったとき、多くの方々からあたたかなご支援を賜りました。そして、大きな勇気と希望を胸に抱けるようになりました。皆様が笑顔になるお酒を届けることができるよう、全社員が一丸となり、誠心誠意醸します。100年後もその先も、日本酒をつくり続けられる未来を胸に抱きながら・・・。すべての日本酒を愛する方々に感謝申し上げます。  山陽盃酒造 社員一同」

 火災から1年たち、新しい酒を世に出すにあたっての蔵のおもいが、瓶の裏ラベルに以下のように書かれている。

「七宝は『永遠に続くご縁』を意味する柄で、兵庫県原産の酒米にこだわる弊社の中でも“兵庫北錦を使用した生原酒”のみに冠されます。あれから1年。私たちは、2018年11月8日をきっかけに紡いだ絆を忘れません。ボトルに詰めたみなさまへの感謝の気持ちと兵庫の恵みを通し、関わるすべての方たちの幸せが連鎖しますように」

 七宝柄とは、円形がずっと連鎖しつながる柄のこと。瓶の表ラベルのデザインが七宝柄だ。さて、いただいてみる。

 酒蛙「おおおっ、旨いっ!」
 T 「酸がすごい」
 酒蛙「そう。酸がすごく立っている。フレッシュ! キレも良い」
 T 「フルーツ系」
 酒蛙「バナナ香もしくはセメダイン似の淡い酢酸エチル香を感じる」
 N 「そう。ふわっとバナナの香りがしますね。女性に好まれるお酒だ」
 T 「これ美味しい。驚いた。甘みが邪魔していない。造りが、大したもんだ」(いつも辛口批評のTが大絶賛)
 N 「これ美味しいですね。香りでやられちゃいますね」
 酒蛙「甘旨みと酸のバランスが非常に良く、果実をおもわせるジューシーなお酒。さっぱり感もあり飲み飽きしない」
 
 瓶の裏ラベルのスペック表示は「原料米 兵庫北錦100%、精米歩合65%、アルコール分16度、原材料名 米(国産)米麹(国産米)、製造責任者 壺阪雄一、製造年月2019.11」。

 使用米の「兵庫北錦」は兵庫県立中央農業技術センター酒米試験地が1974年、母「なだひかり」と父「五百万石」を交配。育成と選抜を繰り返し品種を固定。1986年に命名、1987年に種苗法登録された酒造好適米。

 酒名「播州一献」の由来について、蔵のホームページは以下のように説明している。

「播州一献(ばんしゅういっこん)とは、『播州地域(兵庫県南西部)の豊かな自然の恩恵を受け、作られたお米、播州の水を使い、地酒本来の良さを大切に手間・ひまを惜しまずに醸したお酒をどうぞ』との思いから名付けられました。『いっこん』とは、よく時代劇とかで『ささ、一献』って言っているの見かけたことはないでしょうか? 『いっぱいのお酒』という意味もあります。(三省堂国語辞典より) なので、播州一献とは、”播州産の米と水を使った播州のお酒を、一献どうぞ”という意味です」

 この酒を飲んだ2日後、わたくしは東京・五反田のA居酒屋で、女性日本酒ライターSさんと会った。彼女は、旺盛な取材活動の一方で、「播州一献」の蔵に蔵人として入り、日本酒の勉強に励んでいる頑張り屋さんだ。その彼女から「蔵から酒蛙さんへのお土産です」と渡されたのが、この酒だった。たった2日前に飲んだばかりなのに。なんという偶然。すこし鳥肌が立った。

 この驚くべき偶然の出来事から3日目。わたくしは、なじみのうなぎ屋に入った。店主はいつも、わたくしが飲んだことがないような酒を出してくる。「これ飲んでみませんか?」と差し出したのが「播州一献 山廃純米 愛山」だった。なんということだ。偶然とはいえ、1週間のあいだに、そんなに多く出回っていないとおもわれる「播州一献」に偶然3回も出会うとは。A居酒屋で飲んだ、彼女持ち込みの「播州一献 本醸造」も加えると1週間のうちに4回だ。「播州一献」とは、見えないナニガシカでつながっているのだろうか。そんなことをおもわせる出来事だった。

酒蛙

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