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文化

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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【4058】金鼓 伝承水酛仕込み 濁酒 生酒(きんこ)【奈良県】

2019.12.4 10:00
奈良県香芝市 大倉本家
奈良県香芝市 大倉本家

【B居酒屋にて 全4回の④完】

 当連載「日本酒津々浦々」は、原則として同じ酒を2回載せることはしていない。ごく例外的に2回載せたものが2種類ほどある程度だ。このため常日ごろ、飲んだことがない酒を求めている。このB居酒屋は、わたくしが飲んだことがない酒が冷蔵庫に入っていることが多いので、必然的にしばしば“取材”に訪れることになる。

「東洋美人 純米大吟醸 白鶴錦 40」「陸奥八仙 レイメイ 99」「北島 酸基醴酛 蔵付乳酸菌添加酒母 純米吟醸 玉栄 Motto GO GO」と飲み進め、最後4番目にいただいたのは「金鼓 伝承水酛仕込み 濁酒 生酒」だった。

 大倉本家のお酒は当連載でこれまで、「大倉」3種類、「金鼓」は2種類を取り上げている。しっかりした味わいで酸が出る印象を持っている。が、この酒は曲者のようだ。この酒を持ってくるとき、店主が「当店が始まって以来、一番酸っぱいお酒です」と言ったものだから、構えてしまった。さて、いただいてみる。

 仲居さん「見た目はカルピスみたいね」
 酒蛙「たしかに酸っぱい。激しく酸っぱい。余韻は酸と辛み。漬物の風味がする。これは、乳酸菌の風味なんだろうな。コメの粒々を感じるが、『三重の新嘗 神酒 三重縣神社廳』(当連載【740)】ほどの粒々ほどではなく、粒々は舌でつぶれる」
 仲居さん「枝豆の漬物の上澄み液の香味だ」
 酒蛙「なるほど! わたくしは、白菜の過ぎた漬物の上澄み液を連想したが、枝豆の漬物の上澄み液もいいね。まさしく、そうだ」
 仲居さん「断然、枝豆の漬物の汁の味よ!」
 酒蛙「たしかに。甘みと旨みはやや少ない。辛みはややある。それにしても、だ。酸っぱい。激しく酸っぱい。上品に言うとヨーグルト系なんだろうが、やはり、漬物的な酸と味わいだ」

 瓶の裏ラベルのスペック表示は「金鼓蔵付き酵母、原材料名 米(国産)米麹(国産米)、精米歩合70%、アルコール分12度、日本酒度-30、酸度3.9、アミノ酸度2.6、美味しい飲み方 ◎冷酒/◎やや冷、製造年月30.10.」。酸度3.9には、ぶったまげた。料理に使う酢の酸度は普通、4.2くらい。それとほとんど同じような酸度なのだから!

 また、栓には穴が空けられており、炭酸ガスをすこしずつ外に逃がしてやっている。

 裏ラベルは、水酛について、以下のように説明している。

「水酛は、室町時代に奈良市の郊外にある菩提山正暦寺において創製された酒母のことで、現在普及している速醸酛や生酛系酒母の原型であると考えられています。酒母育成において、酒蔵に住み着き野生化した酵母と乳酸菌の働きを生かすことが特徴であり、現在、全国でもこの古典的な製造技術をもつ蔵元はほとんどありません。本品は、発酵したもろみを流さずにそのまま瓶詰めしていますので『飲む』というよりは『食べる』ような感覚です。
本来、このお酒は奈良県神社庁の委託で、毎年11月末にある『新穀感謝祭』(宮中では新嘗祭)用のお神酒として醸造されております」

 どうも、よく分からない。で、あちこち調べてまとめてみたら、以下のようになった。水酛(菩提酛)はひとことで言うと、菩提酛を江戸時代に進化させた手法である。

 菩提酛は、奈良県の菩提山正暦寺で1440年代に造られた、といわれている。一回仕込み(現代は三段仕込みが一般的)で酒造りをするため、酒母造りイコール酒造りである。清酒造りは、麹による糖化と、酵母によるアルコール生成を同時に行う、という世界で例をみない並行複発酵という技術で行われているが、この技術が室町時代に生まれていたとは驚きである。

 菩提酛づくりの具体的な製法は、まず使用米の1割を御飯に炊き、それを水に浸した残りの9割の生米の中に埋める。この御飯から溶け出した養分によって乳酸菌を呼び込み、増殖させ、この乳酸菌が造り出した乳酸を大量に含んだ『そやし水』を仕込水として使用することによって、強酸性の環境をつくり、雑菌の繁殖を抑える、というもの。天然の乳酸菌だけでなく、天然の酵母菌も取り込む自然醸造法である。

 水酛は、江戸時代1687年の「童蒙酒造記」に記されている醸造法で、乳酸が雑菌の繁殖を抑えるという特性を応用した、主に温暖な季節に適した酒母製造法。基本的には菩提酛と変わらない。

 さて、酒名「金鼓」の由来について、蔵のホームページは以下のように説明している。

「萬歳の 祝て打や きんつづみ ~才蔵(さいぞう)の鼓にあわせて太夫(だゆう)が舞う~ 萬歳は、年の初めにその年の繁栄を願ったおめでたいもの。萬歳好きの初代が このフレーズから『きんこ・金鼓』と名づけたと聞いております」

酒蛙

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