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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【3808】墨廼江 特別純米 中汲み(すみのえ)【宮城県】

2019.5.17 22:56
宮城県石巻市 墨廼江酒造
宮城県石巻市 墨廼江酒造

【Z料理店にて 全2回の①】

 当連載の取材をするため、夕方からB居酒屋に出掛け、一人、カウンターで飲んでいた。4種類目の酒を飲んでいたとき、電話が掛かってきた。自宅近所の料理屋のオヤジだ。「暇だ。話し相手になってくれ」。奴とはいつも、野球談議が白熱する。しょうがないので、B居酒屋を4種類の酒で切り上げ、歩いてZ料理店に向かう。本当に客が一人もいなかった。

 まず選んだのは「墨廼江 特別純米 中汲み」だった。「墨廼江」は、飲む機会が非常に多い酒で、今回の酒を含め、当連載で16種類を取り上げている。今回の酒は、当然、飲んでいるものとばっかりおもっていたが、調べてみたら飲んでいなかった。わたくしは、当連載で使用した写真を全部、スマホに収納、いつでも検索できるようにしているのだ。

「墨廼江」は、蔵元さんの人柄がそのまま表れている、きれいで、しずかな物腰の酒質、というイメージを持っている。わたくしは一度、蔵で蔵元さんにお会いしたことがあるのだ。さて、今回の酒はどうか。いただいてみる。

 すこし、わたくしの好きなセメダイン香(ベンゼン環芳香族系の芳香)似のようなバナナ香似のような香りが感じられる。非常にきれいで上品な酒質はこれまで通り。そして、やわらか、静か、大人しい酒質。しかし、苦み・渋味があり力強さが感じられる。旨みがけっこうあり、飲んでいると旨みが苦みを引き出すような展開となっていく。ジューシーな酸が控えめに存在感を示し、全体のアクセントになっている。単にきれいな酒ではなく、味わい深さももっているお酒だった。

 瓶のラベルの表示は「アルコール分16度、精米歩合60%、原材料名 米(国産)米麹(国産米)」にとどまり、使用米の品種名が非開示なのは残念だ。

 東日本大震災の4カ月前、いちど、墨廼江酒造を訪れ、蔵を見学させてもらったことがある。蔵元さんは、本当に優しくて穏やかで、控えめで、人柄の良さが顔にあらわれている好人物だった。「酒名と蔵名が、なぜ墨廼江なんですか?」というわたくしの唐突な質問にも、石巻市史(たしか・・・)を奥から出してきて、該当の部分を指で示しながら「蔵の創業当時、蔵があった場所が墨廼江と呼ばれていたことにちなみ命名されたようです。このくらいのことしか分かりません」と恐縮しながら答えていたのを、今でも鮮明に覚えている。

「墨廼江」は、昔の地名だったのである。

酒蛙

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