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文化

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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【54】御湖鶴 純米 山田錦(みこつる)【長野】

2010.3.14 18:38
長野県諏訪郡下諏訪町 菱友醸造
長野県諏訪郡下諏訪町 菱友醸造

 一升瓶のラベルは、いわば“顔”。不味そうに見える顔より、旨そうに見える顔の方がいいに決まっている。だから、蔵元さんはラベルにさまざま知恵を絞る。

 たぶん、圧倒的に一番多いラベルは、白地。これに雄渾な字で酒名を書くケースが一般的だ。黒地も多い。赤も黄色もある。地色は無いものの、全面デザイン化しているものもある。

 この御湖鶴を見て驚いた。毎年、多くの種類の酒瓶ラベルを見てきているが、このピンクを見るのは初めてだったからだ。一緒に飲んだ酒友も「おっ! 祝言の酒だ!!! めでてぇな」と冗談を飛ばしながら驚く。

 なぜ、衝撃的ピンクなのだ。その答えは裏ラベルに書かれていた。「『透明感のある酸味』が味わいのテーマです。山田錦の膨らみとやさしさを、パールピンクのラベルで表現しました。さわやかな酸と料理とのマリアージュをお楽しみください」

 山田錦の膨らみとやさしさが、ピンクなのかあ。考えたものだ。ラベルも普通の長方形ではなく、変型版。信濃だからきっと、山をイメージしたんだろうな、とおもう。いろいろ考えてのピンクなんだろうが、「マリアージュ」はいただけない。手持ちの電子辞書(パピルス「パーソナルカタカナ語辞典」シャープ)にも三省堂の「最新カタカナ新語辞典」にも載っていなかった。どんな意味なんだろう。だれが、理解するんだろう…??? あるいは、どんなユーザーを想定して裏ラベルを書いたのだろうか…???

 さて、ラベルデザインに気合が入った酒を飲んでみる。「こりゃ、いい。軽快でさわやか。すっきり。酸味がいい。たしかに酸がさわやかだ。キレがある。香りが控えめ」。わたくしはおもわず口にする。バナナ香似酢酸エチル香似の香りが奥に隠れている。わたくしは、この香りがする酒が大好きなのだ。これはたまらない。酒友は「ラベルと同じように、やさしい酒だな」。

 酸がさわやかなので、飲み飽きしない。飲み進めていると、さらにすっきりとした飲み口になる。控えめな旨味も感じる。居酒屋の店主は「こういう飲み飽きしない酒を置きたいですね。すぐ無くなるから」と真面目な顔をして経営的なことを言うが、その論理が単純過ぎ、笑ってしまう。

 後日、ぬる燗を試してみた。酸と、バナナ香似の香りがさらに出てくる。すっきりした飲み口がさらに強まる。これは、食中酒としておおいに楽しめそうだ。このような気取らない普通の酒を飲んでいると、なんだか酒質と同じように、気持ちもやさしくなる。

 酒名「御湖鶴」の由来について、「『日本の名酒』自宅にいながら蔵元巡りの旅」のサイトは、以下のように説明している。

「"御湖鶴"の命名は、『湖の上で舞う鶴』という意味が込められています。初代創業者がある夜、諏訪湖に飛来し一服の安らぎをとる鶴の華麗さを夢見て命名しました。大正元年(1912)です。
菱友醸造 株式会社 ホームページより」


【備考1】
この記事は、2010年3月14日に初公開されました。

【備考2】
2017年4月に経営破たんした菱友醸造(長野県諏訪郡下諏訪町)の酒造事業を、福島県いわき市の磐栄運送が引き継ぐことになった。復活蔵は2018年秋に仕込みを開始、第1弾として同年12月10日から新酒の販売を再開した。

酒蛙