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文化

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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【56】三芳菊 雄町 純米吟醸 生原酒(みよしきく)【徳島】

2010.3.16 21:08
徳島県三好市 三芳菊酒造
徳島県三好市 三芳菊酒造

 かつて、酒の多くは甘くてべたべたする酒質だった。そんな中、それまでの流れとは正反対の淡麗辛口酒「越乃寒梅」は、多くの飲兵衛に支持され、空前の大ヒット商品となった。これを契機に地酒ブームが起き、酒質の主流も辛口に大きく舵を切った。いまでは、甘口の酒を探すのは本当に難しくなってしまった。

 甘口の酒を忘れかけていたころ、突然、目の前に甘口酒があらわれたから驚いた。仲間との、ある日の飲み会。飲む酒は、居酒屋の店主に任せている。この日は辛口を名乗る酒ばかりが続いた。5種類の辛口酒を飲んだあとに登場したのが、「三芳菊 雄町 純米吟醸 生原酒」。わたくしたちは「初めて見たよ」「ふ~ん、徳島県の酒かあ」と興味津々。

 飲んで驚いた。「うわ~っ! 甘いっ!」「す、す、すごいっ。濃縮したブドウ糖を感じる」「こんなに甘口の酒、初めてだあ」。わたくしたちは口々に驚きの声をあげた。ずっと辛口酒を出し続け、舌を辛口に慣れさせ、そこで超甘口の酒を繰り出し、わたくしたちを驚かせる。お茶目な店主のやりそうなことだ。そのたくらみにまんまと乗ってしまったわたくしたちだが、こんないたずらは大歓迎だ。店主は、わたくしたちが、騒ぐのを見て、静かに「ふふっ」と笑う。してやったり、の表情だ。

 第一印象は甘さだけが突出していたが、飲み進めているうちに、印象が変わった。甘さは変わらないが、味にふくらみがあり、けっこう旨みがあることに気づいた。「このような酒は、燗にすれば、甘さが引っ込み、さらに旨くなるかもね」。わたくしが提案し、ぬる燗をつけてもらう。

 はてさて、ぬる燗にすればどう化けるか。全員、興味津々で飲んでみる。旨かった。酸が出てきて、味が引き締まる。が、読みは外れ、甘さは引っ込まなかった。「燗の方が、味が広がり、面白いね」。だれかが、わたくしたちを代表するような意見を言った。この燗酒は、店主にも飲んでもらった。いわく「バランスがよくなりますね」。

 この居酒屋の店主はなぜ、この酒を入れたのだろう。そのわけをたずねたら、店主の答えは明快だった。「甘口のお酒を所望されるお客さんがいるからです」

 酒名「三芳菊」の由来について、コトバンクは「その香芳しく、その色淡く、その味美しき」の意味を込めて命名」と説明している。酒名「残骸」は、責めが酒の最後の残りの部分だから、そう例えたのだろう。

【備考】
この記事は、2010年3月16日に初公開され、その後一部手を加えました。

酒蛙