メニュー 閉じる メニュー
文化

文化

日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【133】神亀 純米酒 上槽中汲(しんかめ、あげふねなかくみ)【埼玉】

2010.5.10 22:41
埼玉県蓮田市 神亀酒造
埼玉県蓮田市 神亀酒造

 燗酒の醍醐味を教えてくれた酒である。わたくしの、最も好きな酒の一つである。

 それまでわたくしはこの酒を冷やして飲んできた。すこし澱が入っている酒で、フレッシュさと熟成感をともに味わえる、重量感のある酒。いかにも「酒」を飲んでいる、という満足感を覚える酒。そんな印象を持っていた。

 ところがある年のある日、いきつけの居酒屋で、飲み友達Tとこの酒のぬる燗を飲んだときのこと。わたくしの、酒の価値観が変わった。その夜のスタートとして、この酒のぬる燗を飲んだとき、頭の中の「旨み知覚細胞」がはじけた。「うわーーーっ!!! うんめぇ~~~!!!」。あまりの旨さに激しいカルチャーショックを受けた。この酒の奥深さを思い知らされた。「あのな、この酒をぬる燗で飲めよな。燗でなければ、この酒の実力が発揮されないんだぜ。ばあろぉ~!」。この激超旨燗酒を飲んだとき、わたくしは、このように叱られたような思いがした。

 このときは、あまりの衝撃で平静な心を保つことができなかったため、冷静に味を確かめようと後日、自宅で「冷酒」と「燗酒」の飲み比べをし、検証してみた。このようなことをするとき、「あ、俺、理系アタマだな」とおもい、苦笑いをする。

 まず、冷酒で飲む。上立ち香・含み香が抑えられているが、果実を飲んでいるような逆説的な印象。濃厚な旨み。まさしく、コメを飲んでいるようなイメージ。骨太の酒。しっかりしたボディー。厚い、重い。どっしり地に足がついている感じ。甘みも感じられ、とろっとしたタッチ。それでいて、品が損なわれることがない。飾り気が無い。

 次にぬる燗。ううう、旨みがものすごく膨らむ。が~~ん、ぐわ~~んと膨らむ。コメの濃厚な旨みが、カタマリとなって口の中に入り、爆発炸裂する。口がヨロコブ、細胞の一つひとつがヨロコブ。感動である。それしか言葉が出てこない。冷酒のときからの変わりようはドラスティック。いや、そんなもんじゃない。驚くべきパフォーマンス!!! 舌にいつまでもいつまでも旨みが残る。余韻に身をゆだねると陶然となる。

 燗の温度が下がっていくと、なんという展開。旨みがさらに広がり、極致的な旨さを発揮する。やや熟成感のような枯れ草的風味が感じられ、それがまた素晴らしい。冷酒のときにあまり感じられなかった酸が立つ。ううう、旨い!!! まさに、筆舌に尽くしがたい複雑怪奇な旨味ではないか。そして、この旨さは、燗でなければ味わえない。

 数ある酒の中でも有数の、厚みと深みがある酒。酒がコメからできていることを実感させてくれる酒。王道を行く酒。降参である。

 ふと、瓶のラベルを見てみた。「室温または冷やしてお飲み下さい」と書かれていた。なんということだ。

 酒名および蔵名「神亀」の由来について「日本の名酒事典」は「蔵の裏手の天神池に棲むという、神の使いの亀にちなむ」と説明している。

【備考】
この記事は2010年5月10日に初公開、その後一部加筆されました。

酒蛙