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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【134】いづみ橋 とんぼラベル6号 山廃 槽場直詰め 無濾過生原酒(いづみばし)【神奈川】

2010.5.11 22:42
神奈川県海老名市 泉橋酒造
神奈川県海老名市 泉橋酒造

 わたくしは、こどものときからの昆虫ファン。なかでもトンボはお気に入りのグループの一つ。世間一般では、昆虫の中では蝶ファンが断トツで多いが、わたくしは蝶よりトンボが好き。へそ曲がりなわたくしとしては、主流派の蝶を意識して遠ざけているような気がする。そんなのではいけない、とおもうのだが、心が素直になれない。

 居間に置いている竹製アクセサリーもトンボ。ジャケットの襟に付ける七宝焼きのアクセサリーもトンボ。トンボ柄のネクタイを3本持っている。けっこう高いネクタイで、「キヨミズ」モードで買ったものだった。

 そのトンボ好きのわたくしに向って、なじみの居酒屋の店主が「神奈川にトンボの絵の酒があるんですよ」。わたくしは瞬間的に逆上した。トンボラベルといえば山口県の「東洋美人」が有名だが、神奈川県とは初耳だ。「入れて、入れて。お願いだから入れて」と拝み倒し、店に入れてもらった。

 その「トンボ」が居酒屋に入ってほどなくして、わたくしは飲んだ。その何日か前に飲んだ店主が、複雑な表情を浮かべている。「なんだ?どーした?その顔は」「トンボの味、どう表現すればいいか分からなくて」

 どれどれ、と冷酒で飲んでみる。店主が言うほど分かりにくい酒ではなかった。酸が強い。わたくしの大好きなセメダイン香(酢酸エチル香)がある。苦みもある。すっと入り、すっと消える。余韻もほとんど残らない。おっそろしくキレの良い辛口酒。辛口というよりドライ。焼酎的。あまり例をみないタッチの酒ではある。

 酒蛙「これは食中酒だよ。肉とか脂っこいもののお供にいいんじゃないか? 揚げ物とかに合うよ。この店は、辛口の客が多いから、この酒は出るんじゃないか?」
 店主「それが、ちょいと個性的な酒なもんで、予想してたより伸びなくて」

 次に、ぬる燗にして飲んでみる。最初のアタックは、セメダイン香と酸だった。この2つの要素が前面に出て来る。より分かりやすい飲み口になった。

 蛙「いいね。トンボは、いいよ。個性的で好きだよ」
 主「嫌いじゃないかと思ってましたよ」
 蛙「それにしても、この飲み口、トンボって感じじゃないな。クワガタムシ系だよ。トンボって、やさしいイメージがあるけど、この酒のタッチは、やわらかくはない。やさしくもない」

 再び冷酒で飲み、今度は、焼きそばと合わせてみる。この店は「焼きそばを出す居酒屋」がウリなのだ。焼きそばと合わせたときの、わたくしと店主の会話が、ばかばかしくておかしい。

 蛙「おもしろい。『とんぼ』の角がとれ、飲み口がすこし丸くなった」
 主「じゃ、『とんぼ』が負けたのか?」
 蛙「いや、『とんぼ』もしぶといぜ。焼きそばと合わせても、余韻に苦みが残る」
 主「じゃ、ちょうどいいんですね」

 なぜ、ラベルにトンボを使っているのか。その答えは、瓶の裏ラベルに書かれていた。以下に転載する。

 「日本酒は田んぼから生まれる農業副産物と考え、酒蔵のあるべき姿として酒米作りから取り組んでいます。赤とんぼは、田んぼで生まれ育つ代表的な生物ですが、そんな赤とんぼがもっとたくさん生まれてこられるように、そして大地の恵みをもっとお酒で表現できるようにそんな健康的な山田錦の栽培・醸造をして行きたいと思います」

 酒名および蔵名に使われている「泉橋」の由来について、蔵のホームページは、以下のように説明している。

「1927年の航空写真を見ると、泉橋酒造北側の海老名耕地に泉川(いづみがわ)が流れています。この泉川は田んぼの用水路の役目を果たしていました。また、蔵の屋号が『橋場(はしば)』だったことから、泉川+橋場=泉橋となったのことです。水田の穀倉地帯からの命名だったことがわります。しかし泉川は、1930年から行われた土地改良事業でまっすぐな用水路に姿を変えてしまい、現在では泉川は存在していません」

【備考】
この記事は2010年5月11日に初公開、その後一部加筆されました。

酒蛙