メニュー 閉じる

47News

文化

文化

日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【343】菊の司 七福神 大吟醸 てづくり(きくのつかさ、しちふくじん)【岩手】 

2010.11.20 20:37
Share on Google+ このエントリーをはてなブックマークに追加
岩手県盛岡市 菊の司酒造
岩手県盛岡市 菊の司酒造

 1年に1回の飲み会がある。長かった記者時代のうち、20~25年くらい前、取材でお世話になった方々が数人、それに会社の先輩が1人。そのようなメンバーだ。先輩が会を仕切っており、飲み会を始めて、かれこれ5年以上になる。

 なにしろ、20~25年くらい前にお付き合いした方々のため、わたくしを除くと全員70歳以上。しかし、みなさん、年齢を感じさせない若々しさ。毒舌もツッコミも、20~25年くらい前と同じだ。が、さすがに話題は、もっぱら病気と知人の消息。やっぱり、70歳以上の飲み会だ。

 歳を重ねてもやんちゃなメンバー。その中で、最も温厚なNさんが、大病を患った。4月に入院、8月末に退院した、という。ほとんど絶望的な状況から、奇跡的に生還したNさん。わたくしは、そのことを先輩から聞いて知っていたが、まさか、この飲み会に出席できるまでに回復しているとは思わなかった。

 すこし遅れて飲み会場の居酒屋に着いたわたくしは、すでに飲み始めているメンバーの中にNさんの顔を見て驚いた。「すごいね、よかったね。うれしい」と言うと、Nさんは「あまり飲めないけど、飲めるまでになりました。遠足の前日のように、ゆうべからわくわくしていました」とにっこり。さすがにやつれてはいたが、おもいのほか元気そうだった。

 全員が飲んでいた酒を見て、また驚いた。おめでたい「七福神」。これはメンバーのMさんが選択して、まず、この酒から始めたのだ、という。「酒メニューを見たら、この七福神しかない、とおもったよ。きょうは、なんてったって、Nさんの回復祝い。おめでたい酒を飲まなくっちゃ」とMさん。そのやさしさがうれしい。

 だいぶ前、「七福神」を飲んだときは、妙な熟成感を感じて、舌がなじめなかったことがあったため、すこし警戒したが、それは杞憂だった。なんてったって、これは大吟醸だ。これはてづくりだ。

 含んだ瞬間、ふくよかさを感じる。大吟醸らしくない、とろり性のあるふくよかさだ。そして、これも大吟醸らしくなく旨みが広がる。全体的に旨口。一見、軽快なようで、よく味わうと、それほど軽快ではなく、しっかりした味わいがある。適度な香りが好ましい。大吟醸にしては控えめな香りだ。辛さもある。奥に甘みがある。余韻は、やっぱり辛さ。

 大吟醸というよりは、総じて純米吟醸的な、しっかりした味わいの酒だった。Nさんの回復祝いに彩りを添える酒としては、最高ではないか。わたくしは、うれしくなって、何杯も、この酒を飲んだ。

 Nさんは、「あす、検査があるから」と言って、2時間足らずで中座した。そして、翌日、わたくしにメールを送ってきた。「楽しくて、楽しくて。本当に楽しかった。来年、命があれば、また、この会に参加したい。それまで、がんばって生きたいとおもいます」。来年、ぜひ、またNさんと飲みたいものだ。こんどは、違う酒で再会を祝いたい。

酒蛙

最新記事