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日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【370】醸し人九平次 純米大吟醸 別誂(かもしびとくへいじ、べつあつらえ)【愛知】 

2010.12.13 22:05
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愛知県名古屋市 萬乗醸造
愛知県名古屋市 萬乗醸造

【日本酒研究会月例会 全6回の④】

 数年前の話である。東京・銀座の日本酒の店。居酒屋とも割烹とも小料理屋とも違うので、とりあえず日本酒の店、としておく。この店は常時、全国の地酒約250本を置いており、利き酒師でありワインソムリエでもある女将が、客の好みや料理に応じて、酒を繰り出す。わたくしは、この女将に酒を教わった。

 女将はなかなかのお茶目で、激しく旨い酒を出したかとおもうと、激しくまずい酒を出したりもする。要するに、わたくしの舌をテストしているのだ。だから、いつも真剣に味わった。だから、酒を覚えた。

 ある日のこと、その女将が「めちゃくちゃ旨い酒を見つけた。近年稀にみる大ヒットだああ!」などと大げさに言いながら、「醸し人九平次 純米大吟醸 別誂」を出してきた。さっそく飲んだわたくしは、声に出して驚いた。激しく旨かったのだ。「酸味、旨味、深み、キレのいずれもが良く、香りが心地よい。濃醇な酒だあ。上品で、バランスの良い酒だあ」と、知っている限りの語彙を駆使し、はしたなくも大声で叫んだ。

 それほどの旨さだった。年間400種類以上の酒を飲んでいると「どの酒が一番旨いとおもうのか?」と問われるとが多い。そのときの気分によって、答えは違うが、この酒だけは、かならず答えの中にあがる。なぜなら、その旨さが脳にくっきり刻まれているからだ。つまり、これまで飲んだ中で、わたくしが1、2に旨い、とおもっている酒が、この酒なのだ。

 が、値段が高いので買えない。で、しばらく、この酒を忘れていた。おもいださせてくれたのは、前回の日本酒研究会月例会。M居酒屋の店主が出してきた「nechi 2008」(当連載【330】参照)がきっかけだった。「nechi 2008」は、ラベルがワインを模したものだった。これに反応したわたくしは「『醸し人九平次 純米大吟醸 別誂』も、ワインを意識したラベルだったよ。ものすごく旨い、伝説的な旨さの酒だった」とひとくさりした。

 店主は、これを覚えていて、4番バッターとして今回起用したのだった。店主によると、M居酒屋では、この酒をレギュラー的に置いており、人気ですぐなくなる、という。予期せぬ形で、久しぶりにこの酒と対面したわたくしは、大感激だ。

 店主「この酒は、フランスのミシュランガイド認定三ツ星レストランでよく出ています」

 F 「一升瓶でですか」

 店主「いえ、もっと小さい瓶です」

 酒蛙「そりゃ、あちらで人気があるのも当然だよ。これ、激しく旨いんだから」

 K 「『誂』、何と読むの?」

 酒蛙「『あつらえ』だよ」

 K 「読めません!」

 さて、久しぶりに飲んでみる。数年前と同じように反応した。やっぱり、激しく旨かったのだ。

 酒蛙「う、う、う、う、う、旨いっ!」

 F 「こりゃ、世界中の人に愛される酒だ」

 酒蛙「この酸、この旨み、すごい。バランスもすごい。落ち着きがある。落ち着いた品がある。酸と甘みと旨みがワイン的なので人気があるんだろうな。とにかく旨い! 濃醇酸味酒だ。ワイン語で言うところのフルボディーだ。フルボディーだけど、すっとキレる」

 店主「向こうの人たちに人気があるのも分かりますね」

 酒蛙「目隠しテストで出されると、白ワインと間違う」

 店主「はい、間違う人が多いんですよ。当店でも売れ筋です」

 まったくもって、芳醇な白ワインだ。いやはや、激しく旨い。これまで、わたくしが、旨い酒の1、2番(あくまでもわたくし個人の見解です)に挙げてきたのに間違いはなかった。というより、数年前に感じた味と同じだった。もう、こうなれば、奇跡の味、奇跡の旨さ、というよりほかはない。杜氏というか酒造責任者は天才じゃないのか? そうおもいたくなる。

 蔵の目標は「熟れた果実味をベースに、気品・優しさ・懐かしさを感じる日本酒」というが、まさに、その目標が具現化されたのが、この酒だ。

 瓶の肩ラベルに「EAU DU DESIR」(筆者注=Eの上にアクサンテギュがある)というフランス語が書かれている。このあたりにも、ワインを強く意識しているのが分かる。

 そのフランス語の意味について、裏ラベルにこう書かれている。「『EAU DU DESIR』とは希望の水と訳させていただいております。みなさんにとって、日本酒がもっともっと“幸”(さち)多きものとなることを願い私たちは精進を続けてまいります。何卒今後とも日本酒のことを応援、宜しくお願い申し上げます」

 「醸し人九平次 純米大吟醸 別誂」。これだけ、べらぼうに旨ければ、“幸”は来るよ、きっと。

酒蛙

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