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文化

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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【480】御前酒 菩提酛純米 9(ごぜんしゅ、NINE)【岡山】

2011.4.22 21:40
岡山県真庭市 辻本店
岡山県真庭市 辻本店

【ひとり酒 全2回の①】

 久しぶりにH居酒屋で飲み会が企画された。ところが、地震やら停電やらで自然消滅。ふだん、客がすくないH居酒屋だから、店主のがっかりぶりは甚大ではなかろうか、とおもい、ひとりでH居酒屋の暖簾をくぐる。

 「会を開くのは無理じゃないだろうか、とおもっていましたよ。やっぱりね」と店主は淡々と話す。そう言ってもらえれば、こちらも気が楽だ。冷蔵庫を見たら、新しい酒が5種類入っていた。このうちの1つが「菩提酛純米 9」。酒とはおもえないラベルだ。

 酒蛙「なんだ、なんだ?この酒は。見たことも聞いたこともないよ」

 店主「人気酒のようで、よくラベルを目にする酒ですよ。ニューウェーブ系とかいう話です。実はこれ、持ち込みなんです」

 常連客の送別会が1週間前にH居酒屋で開かれ、20人を超える飲み仲間でにぎわったとか。その参加者の1人が、この酒を持ち込んだのだ、という。店主にこの酒の感想を聞いたが、どうにも要領を得ない。「つかみどころのないお酒です」。それだけじゃ分からない。さっそく、冷酒で飲んでみる。

 酒蛙「あ、なるほど。たしかに、これといった自己主張がない。コメの旨みがまったり広がるが、酸味があまり出て来ないので、飲んだ印象はメリハリがない感じだ。あんたが『つかみどころがない』というのがよく分かるよ」

 店主「でしょ。メリハリは感じません」

 酒蛙「適度な厚み。それほど厚みはない。甘旨って感じかな。やわらかいタッチだ。香りは抑えている」

 店主「俺、薄く感じるんだよ」

 酒蛙「いや、薄くはない。コクを抑えているから、そう感じるんだよ。やさしい飲み口だな」

 店主「あはは。無理やり言葉を探しているね」

 酒蛙「いや、違うよ。おだやかな飲み口だ。奥に若干、熟成感がある。口が慣れてきて、温度がすこし上がってきたら、酸が出てきたよ」

 次に、ぬる燗をつけてもらう。このような酒は、燗にすると俄然、実力を発揮する傾向にある。楽しみにしながら、燗の出来上がりを待つ。

 酒蛙「たぶん、酸が出てメリハリが出る予想だ」

 店主「予想は言わないようにしよう」

 燗ができるまで、予想をしながら待つ、というのは、とても気分のいいことだ。プレゼントの包みを開ける前のような心境だ。が、この酒に辛口批判を連発している店主は、乗ってこない。さて、燗ができた。

 店主「苦みが出ます」

 酒蛙「苦みは出るけど、いい感じの苦味だ。基本的には冷酒と同じタッチだが、より軽快になり、よりまろやかになる。コクは冷酒のとき同様、すくなめ。冷酒のときより酸が出てくるよ」

 蔵のホームページを見ると、この酒については、以下のようにPRしている。

 「熟成を経て、雄町米由来の濃醇な旨みと、『菩提もと』ならではの特徴的な酸が際立つ、すっきり旨口系純米酒です。お料理とあわせるなら、脂がのった旬のお刺身や鰻、ハードタイプのチーズ(ミモレット・コンテ)がおすすめです。よく冷やしてそのまま、またはお燗でどうぞ」

 コメの旨み、すっきり旨口系、これについてはわたくしの印象と同じ。素直に同意する。しかし、「酸が際立つ」という部分は、わたくしの印象とは違う。飲んでみて、際立つほど酸は出てこなかったようにおもえた。

 ところで、この酒の「菩提酛」とは、いったい、どんなものなんだろう。見るのも、聞くのも初めてだ。これについても、蔵のホームページで以下のように説明している。

 「日本最古の製法『菩提もと』づくりを採用。さまざまな清酒製法の起源といわれるのが『菩提もと』づくりです。その特徴は、米を入れた水に天然の乳酸菌を発生させてつくる『そやし水』。この水を『もと』づくりのはじめに加えることで、雑菌を抑えながらアルコール発酵を促せるため、夏場でも安全・キレイなお酒が造れます。『9(NINE)』は、全国的に珍しい製法で清酒のルーツに挑み、かつてない洗練と革新を続けます」

 う~む、難しい。しかし、である。さまざまな清酒製造技術が進歩している現代にあって、なぜ、最古の製法をあえて採用したのだろう。この文章だけでは分からない。

 ところで、なぜ「9」なのだろう。この素朴な疑問にもホームページは説明している。それによると、「清酒の概念を革新していく、女性杜氏を中心とした若い蔵人の数」。すなわち、9人の蔵人の数を酒名にしたのだ、という。また「十分ということは決してない」という意味を込めて「9」なのだ、という。

 その若い蔵人たちは、「若者にも飲んでもらえる酒をつくりたい」という命題を持って「9」づくりに挑戦、その命題の解を「飲みやすさ」とし、それをめざして酒造りをした、とホームページに書かれていた。この酒が、命題の解になっているのかどうかは、若者ではない、年寄りのわたくしには分からない。

酒蛙