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文化

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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【600】紀土 純米-KID-(きっど)【和歌山】

2011.9.23 23:53
和歌山県海南市 平和酒造
和歌山県海南市 平和酒造

【T居酒屋にて 全3回の①】

 同僚であり酒友でもあるSTが週明け、仕事場に来て、こう切り出した。「T居酒屋にキッドが入りましたよ。知ってますか?」。わたくしは前の週の月曜日と火曜日、T居酒屋で飲んでいる。わたくしはT居酒屋に行くたび、冷蔵庫の中のラインナップをチェックしている。しかし、キッドなる酒は無かった。そう答えるとSTは、自慢げにこう言った。「むふふふふ。俺、金曜日に飲んだんだ」

 キッドなる酒は聞いたことも飲んだこともない。こりゃ、飲まずにはいられない。ちょうどこの日は、業界の寄り合いがあった。経済人の講話を聴いたあと懇親会、そして解散。わたくしは同業者の酒友SJを誘った。「T居酒屋に行かないか?」「おっ、いいっすね。最近足が遠のいていたので行かなければならない、とおもってました。ちょうどいいやああ」。決まり、だ。2人、小雨の中を歩いて移動、T居酒屋の暖簾をくぐる。

 わたくしがいつも座るカウンターの端に、中年の男が座っていた。仕方がないので、隣に座る。わたくしは、かなり出来上がっていたので、いきなり酒を注文する。「キッドください」。すると隣の男が顔を上げ、言った。「それ、俺が納入した酒だ。あれま、蛙さんじゃないかあ!」

 仰天した顔を見た。近所のI酒店の若旦那ではないか。若旦那といっても46歳。わたくしが家飲みに愛用している「土佐鶴 本醸辛口」は、このI酒店で買っている。なじみの酒屋と常連客という間柄。なんという偶然、なんという巡り合わせ。わたくしが、いきなり、Iが納入した酒を、目の前で注文したもんだから、Iはうれしくてたまらない表情だ。分かる、分かる。

 表ラベルを見たら、「紀土」。そして裏ラベルを見たら、「紀土 -KID-」と書かれている。たしかに同僚STが言う通り「キッド」だ。冷酒でいただく。

 酒蛙「酸が立って旨みがある。すっきりした飲み口だ。きれいな酒質。すこしとんがった飲み口で、それほどまろやかではない。すこし固さがあり、やんちゃなイメージだな」

 I 「そう、やんちゃですね」

 酒蛙「食中酒に向いているね。クセがない。肩が凝らない酒だ。ゆるゆるした気持ちで飲める」

 I 「そうだよ。究極の食中酒だとおもう」

 Iは利き酒師の資格を持つ酒屋だ。言うことは、一般の酒屋とは一味違う。酒質を論理的に言う。そのIとのやりとりだから、わたくしは柄にもなくすこし緊張しながら話す。

 そのうちわたくしは、気になっていることを彼に聞いた。

 酒蛙「裏ラベルにKIDと書かれているけど、子供は酒を飲めないよ。なぜKIDなんだい?」

 I 「子供はKIDSじゃないの?」

 酒蛙「KIDSは子供の複数形、KIDは単数じゃないの?」

 I 「……」

 マヌケな会話を交わす2人。要するにIは、なぜ酒名にKIDを名乗っているのか、その訳を知らなかったのだ。まあ、いい。

 瓶の裏ラベルには、こう書かれている。「紀土 -KID-   蔵は、山地の多い和歌山でも山の麓の盆地に位置します。朝夕の冷え込みが厳しく、また木や山、大地に磨かれた地下水が豊富な酒造に適した場所です。口当たりの柔らかさ、口に入ったときの吟醸香が特徴です。紀州の風土を感じていただければ幸いです」

 う~む、口当たりは柔らかいとはおもえなかった。むしろ、すっきりシャープなようなタッチにおもえた。また、吟醸香は感じなかった。控え目な香りは感じる。う~む。でも、人の舌は千差万別。ラベルと違う感じ方をしてもおかしくはない。そうおもうことにする。

 この蔵の主要銘柄は「鶴梅」「紀土」「紀美野」の3種類なんだそうだ。いずれもわたくしの知らない銘柄。その中で最初に「紀土」を飲んだことになる。

 ところで、この文を書くにあたり、なぜKIDなのかネットで調べてみた。蔵のホームページにはその訳が書かれていなかったが、ほかのサイトに「『紀土 -KID-』の名前の由来は、『紀州の風土』からというイメージと子供のように自由に天真爛漫にというイメージから命名されました」と書かれていた。本当なのかどうかは、知らない。あくまでもネット情報、ということにしておく。

酒蛙