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文化

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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【601】紀土 純米吟醸-KID-(きっど)【和歌山】

2011.9.24 22:50
和歌山県海南市 平和酒造
和歌山県海南市 平和酒造

【T居酒屋にて 全3回の②】

 業界の定例的な懇親会がハネたあと、酒友というかカラオケ友というか、ま、そんな関係のSとわたくしは2人、双方なじみのT居酒屋に転戦した。

 わたくしは、同僚から得た情報で、最初から「紀土 純米-KID-」を飲むつもりだった。聞いたことも、見たこともない酒だったからだ。で、カウンター席に着くやいなや、この酒を注文した。

 これに激しく反応したのが、カウンターの隣席にいた男。なんとわたくしが晩酌酒をいつも買っている酒屋の若旦那Iではないか。そして、このIがT居酒屋に納入したのが「紀土 純米-KID-」(当連載【600】参照)。Iが驚くのも無理はない。

 利き酒師でもあるIは、「紀土 純米-KID-」を飲んだわたくしの感想を聞き、「ふむふむ」と満足そうな表情。気をよくしたIは「次に『紀土 純米吟醸-KID-』を飲んでみてよ。そして、感想を聞かせてよ」と熱心に純米吟醸を薦める。まるでわたくしは、Iのモニターではないか。でも、いい。飲んだことがない酒を飲めるのなら、問題ない問題ない。そして、冷酒でいただいてみる。

 酒蛙「純米のときには感じられなかった吟醸香がほどほどに感じる。酸があり、すっきりした飲み口。純米よりすっきりした感じで、旨みと酸がある。酸は純米のときより強い。純米同様、あまりまろやかには感じない。でも、純米よりはとんがっていない。甘みはほんのすこし感じ、余韻にやや苦味がある」

 I 「そうそう。淡白な食中酒って感じだな」

 酒蛙「厚みがあまりない。キレが良い。すこし粗さがあるのが面白い」

 I 「その粗さが、いいんだよ」

 酒蛙「ソリッドでシャープなお酒、というイメージ。純米と比べ、よりきれいなお酒におもえる」

 I 「ソリッドでシャープ? 難しい表現だな。分かんねぇ~なぁ~」

 純米と比べ、すっきり感があり、酸を感じるぶん、飲みやすいようにおもえた。そして、酸を意識できるぶん、飲み飽きしない酒におもえた。酒屋の若旦那Iが言うように、食中酒として、いくらでも飲めそうなお酒だ。この、いくらでも飲めそうなお酒、というのがいいお酒なんだ、とおもう。なにしろ、酒の消費拡大、そして蔵の経営向上につながるのだから。

 さて、気になることがある。瓶の裏ラベルである。以下のように書かれている。

 「紀土 -KID-   蔵は、山地の多い和歌山でも山の麓の盆地に位置します。朝夕の冷え込みが厳しく、また木や山、大地に磨かれた地下水が豊富な酒造に適した場所です。口当たりの柔らかさ、口に入ったときの吟醸香が特徴です。紀州の風土を感じていただければ幸いです」

 この文言は、「純米」の裏ラベルとまったく同じではないか。この蔵は、「純米」と「純米吟醸」をまったく同じ飲み口、という自己評価をしているのだろうか。ま、それは蔵の勝手で、飲み手がつべこべいう筋合いのものではないが、正直に言って、腑に落ちないものをかんじる。

 ところで、考えてみればわたくしは、業界の懇親会が終わったあと、このT居酒屋で、プロ野球横浜-読売戦を観戦するために来たのだった。大型テレビ画面では熱戦が繰り広げられていた。

 ところが、だ。わたくしは酒屋の若旦那Iとの会話に夢中になり、すっかりテレビ観戦を忘れていた。気がついてテレビを見たら、横浜の育成選手がヒーローインタビューを受けているではないか。

 おおおっ! わが横浜の勝利ではないか。が、せっかく勝利の瞬間を見に来たのに、肝心のシーンを見逃すとはマヌケもはなはだしい。でも、勝ったからいい。

 それにしても、先発が育成選手で、お立ち台に登るとは。わたくしが、「すげぇな。うちの育成選手、すげぇな」と喜ぶと、T居酒屋の店主が、シレっとした表情で、こう言うではないか。「横浜の一軍がだらしないから、育成選手を使わなきゃならないんだろ」。おもわずわたくしは「うっせー!」と叫び、店を出た。真実を直球でえぐられると、さすがに頭にくる。なんだか、昭和の居酒屋的展開だな。

酒蛙