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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【629】車坂 純米大吟醸 出品酒 瓶燗原酒(くるまざか)【和歌山】

2011.10.28 20:46
和歌山県岩出市 吉村秀雄商店
和歌山県岩出市 吉村秀雄商店

【ICさん歓迎会 全6回の⑤】

 わたくしたちの月例飲み会「日本酒研究会」。その草創期のメンバーの一人ICさんが、久しぶりに、当地にやってくる。連絡をいただいたわたくしたちは「おおおっ、それじゃ、大歓迎会だ」。すぐにメンバーが集まった。

 場所はホームグラウンドのM居酒屋。「成龍」「縁や」「十ロ万」「人気一」という、ふだんあまりお目にかかることのできない酒が次々と繰り出され、店主が5番目に出してきたのも「車坂」という、これもわたくしたちが見たことも飲んだこともないお酒だ。いただいてみる。

 IC 「肩が凝らずに飲める酒ですね。一見、極めて標準的。しかし、そのような酒は意外に少ないものだ。だから、すごい」

 IG 「これは、いいっすよ。うまいお酒っす」

 酒蛙「これはいい。とろりとして、旨味があり、まろやか。適度な酸。香りは抑え気味で、ほの香る。実にきれいなお酒だ。派手さはないが、いい感じだ」

 瓶の裏ラベルには、以下の口上が述べられている。

 「林本杜氏が丹精込めて造った当店最高のお酒です。上立ち香より含み香の印象が良く、喉に広がる米の旨味と香りが特徴です。皆様にご評価頂きたく出品酒として、香、味、価格を是非、皆様でご評価下さい」

 また、裏ラベルには「原料米 兵庫県播州特A産山田錦100%」と書かれている。兵庫県播州特A産山田錦は、酒米の王者・山田錦の中でも最高と評価されているコメだ。ずいぶん力が入っているのが分かる。

 蔵のホームページでは、この酒について、以下のようにPRしている。

 「播州山田錦は、香味の調和のとれた綺麗さ。

 香りが高いお酒が世に溢れる中で、弊社の目指す酒はあくまで香味一体となった酒です。味わいと調和しない香りは、酒の味わいを邪魔するものだと考えています。

 自家精米により磨き上げた播州社町特A産山田錦100%を使い丁寧に原料処理。そして長期低温発酵により初めて生まれる自然で優しく豊かな香り。

 口に含むとしっかりとした旨味を持ちながらも、旨味と酸味が調和し綺麗なまとまりを感じさせます。そして、旨さだけが“するり”とのどを通り抜けていきます」

 きれいなお酒で、旨味があり、酸味・香りが適度、というところが、わたくしが舌で感じた印象とずばり同じだった。

 ところで、なぜ「車坂」なのだろうか。その疑問に、蔵のホームページはこたえてくれている。それによると、以下のような由来がある、という。

 「車坂は小栗判官が熊野に向かう際、通ったといわれる坂。

 熊野の地は古くから死霊が集まる死者再生の聖域とされ、男女の別、貴賎を問わず多くの参拝者を受け入れました。熊野に詣でれば病苦から逃れられ、たとえ途中で行き倒れても来世で救われる、また道行く人々と助け合うことが死んだものへの供養になると信じ長旅の苦しみを分かちあいました。

 小栗判官の伝説は、こうした熊野の地が生み出した『死と再生の物語』なのです。労苦を癒し喜怒哀楽と共にある日本酒。人それぞれが日々向かい合う坂。頑張ろう日本再生の願いを込め車坂と名付けました。

 その味わいは、上り坂を歩むような力強さの中にも、後味は下り坂を駆け下りるような爽快感を目指しました。

 ニュアンスは軽やかだがしっかり味わえるものをお届けしたい。肩肘張らずに気楽に飲めるお酒を。いつまでもペースが落ちずに楽しみながら飲み続けられるような旨い酒です。世の中が複雑になった今、車坂のシンプルに素朴な良さが体に染み渡る」

 このお酒を飲んで、一番最初にICさんが「肩が凝らずに飲める酒ですね」と反応した感想は、実は、蔵のコンセプトそのものだったのだ。

酒蛙